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「タラ・レバ」スタイルdeluxe川崎悦子×柴田健児
「タラ・レバ」スタイルdeluxe川崎悦子×柴田健児
東京・恵比寿のビートニックスタジオが行った、スタジオパフォーマンス「タラ・レバ」のチケットは毎回即完売。ジャズ・モダン・ストリートが上質なバランスで融合される空間に、感動するファンが後を絶たない。そしてこの夏、多くのファンの期待に応えて、スタジオを飛び出し青山円形劇場で上演されることになった。ビートニックスタジオにお邪魔し、代表・川崎悦子と出演ダンサー柴田健児から、「タラ・レバ」への愛情とダンサーとして、表現者としての真髄が語られた。

川崎 悦子

川崎 悦子1983年、BEATNIK STUDIOを設立。ほぼ同時期に、一世風靡セピア“前略、道の上より”で振付家としてデビュー。スタジオでの指導の傍ら、劇団☆新感線、宝塚歌劇団、演劇集団キャラメルボックス等数多くの舞台の振付を手掛けている。近年はMA主演『FAME』、玉置成実主演『スウィート・チャリティ』など、ミュージカルの演出家としても活動の幅を広げている。
柴田 健児

柴田 健児1983年、BEATNIK 福岡県出身。1998年にカポエラを始め、2000年にブラジル・サルバドールに渡る。世界的なカポエリスト、メストレモライスに師事。2002年、アンゴラカポエラグループ、「G.C.A.P」 (ブラジルのカポエラ団体日本支部) のリーダーとなる。そして2007年4月21日、日本人初のコントラメストレの称号をメストレモライスにより与えられる。その他、ブラジル大使館やアンゴラ大使館でのカポエラデモンストレーション、劇団☆新感線『髑髏城の七人〜アオドクロ』出演など、幅広い場で活動している。
「タラ・レバ」とは?

1983年、BEATNIK 2004年から毎年開催されている川崎悦子代表の「ビートニックスタジオ」で行われたスタジオパフォーマンス。スタジオの作りを駆使した構成能力の高い展開と、日常のありふれた風景を切り取った独創性的なテーマ、 笑い。そして何よりダンサーたちの能力・演技力の高さが、毎回チケットを即完させている魅力である。
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「タラ・レバ」は初回から拝見していますが、本格的なジャズやコンテンポラリーとストリートが共存している環境は、当時ほとんどなかったと思います。初めて融合しようと思った時はどういう感覚でしたか?

川崎

うーん…融合させようとか、全然思ったことはないですね。そういう垣根がもともとないですね。

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「タラ・レバ」の出演メンバーはどのように集まったんですか?

川崎

川崎 悦子なっちゃん (木下奈津子) は、ものすごい古くから知ってるんですよ。彼女がまだハタチくらいで、私が振付をしたことがありました。テツ君 (TETSUHARU) も、尚 (松田尚子) も次郎 (森川次郎) も、みんな19、20歳くらいから知っているので、彼らの成長過程を見てきているというか。だから、彼らも私が好きなこととの共通項のようなものを持っていると思います。だからこそ、今でもずっと付き合いが途切れなくて、なおかつ、私がセンスがいいなと思っているメンバーです。

JuNGLEは、ビートニックスタジオの発表会の時に、テツ君となっちゃんと出てくれたんです。その時に、「日本人じゃないみたいで、かっこいい人がいるな〜」と思って観てました。そして、別のステージを観に行った時、客席に向かって中指を立てて踊ってるすごい女がいて (笑) 。「なんだコイツ!?」って思ってたら、それがどうやらJuNGLEだったの (笑) 。その時から「かっこいいね、かっこいいね」って私が言ってたら、なっちゃんが「メンバーとしてどう?」っていうことになって、JuNGLEも私に興味を持ってくれていたみたいだったから、「じゃあ、ぜひ。」ということでメンバーになりました。そしてJuNGLEがHIRO君のことを紹介してくたんです。

けんぼう (=柴田健児) と薫ちゃん (=原田薫) は、1回目の「タラ・レバ」を観に来てくれて、「出たい」って言ってきてくれたんだよね?

柴田

そう、直訴しました (笑) 。「タラ・レバ」の1回目はね、本当に面白かったね。あれは、“どストライク”だった (笑) 。

川崎

その前に、薫ちゃんは一度私の公演に出てくれたことがあったんだけど、そんなに私とは接点のないまま終わってた。けんぼうは、最初テツ君の出ている舞台に出てて、「何者だろう、この人は!?役者かなぁ…でも役者にしては、踊れすぎじゃない?」って思って (笑) 。終わって楽屋に行ってテツ君に感想を言う前に、「ちょっとあの人誰!?」って聞いて、「私彼と一緒に仕事したいから、芝居に興味あるかないかだけ聞いといて!」って言ったんだよね。それで…なんだっけ (笑) 。

柴田

“劇団☆新感線”ですかね。

川崎

そうだ!それで劇団☆新感線のいのうえさん (演出家) に、「とにかく面白い奴がいるんだけど。」って言ったら、「じゃ、次の作品に出てもらってもいいですよ。」って、ものすごく展開が早かったんだよね!たぶん、会うべくして会うタイミングだったんだと思う。普通そんな風にとんとん拍子にいかないよね。それで、 (市川) 染五郎さん主演の舞台 (=『髑髏城の七人〜アオドクロ』) に出てもらったんです。その舞台を上演していた頃、「タラ・レバ」の1回目の公演に薫ちゃんと観にきてくれたんだよね。

劇団☆新感線 (げきだん しんかんせん)
…ロックコンサートのような派手な演出、照明、音響、展開。チケットが入手困難なほど人気があり、その名の如く、今までにない感覚でファンを魅了し続ける劇団。1980年、大阪芸術大学の学生により設立。主宰・演出家いのうえひでのり。座付き作家中島かずき。なお、文中、市川染五郎氏主演の『髑髏城の七人〜アオドクロ』は、2004年10月6日〜28日、日生劇場にて上演。

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けんぼうがさっき、1回目の「タラ・レバ」を観て、「“どストライク”だった」って言ったけど、どういうところがどストライクだったの?

柴田

柴田 健児あの時は、“なんて、ダンスは楽しいんだろう!”って感じさせてくれたんだよね。作品がどうだったとかではあまりなくて、“ダンスって面白いね!”っていう印象が残ってる。俺の中では一番いいことをやってるんじゃないのって感じた。だって、決まったことをやらないから。それが新鮮だし、かと言っておふざけだけでもなくて、ちゃんと踊りで締めるし、ダンサーのスキルの高さも観ててわかる。キャラクターが消えてる人は1人もいなくて、それでいて、1人1人のダンサーの「ダンスが好きだー!ダンスっていいぜー!」っていうオーラが、ここ (=ビートニックのスタジオ) の空間内にビンビンきてた。パフォーマンスが終わった時、感想も言えず、薫と居酒屋にすぐ入って、とりあえず生ビール頼んで、乾杯もせずにぐぁーって、半分くらいまで飲みほした。俺も薫も「やばいよね?」「うん。」「出たいよね?」「うん。」って、もうそれしか言えなかった (笑) 。

川崎

そう言ってもらえると嬉しいな〜。

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作品のストーリーは毎回どのように決まっていくんですか?

川崎

私が日常の面白いと思ったことを、ネタ帳みたいにストックしていくんです。「人って面白いな〜」っていうことを形にしてもらうと、如何せんこういう個性の強いメンバーなので、投げたボールが何倍にもなって返ってくるわけです。例えば、タクシー待ちしてる時、電車に乗ってる時とか、変な人を見ると、すごく観察するのが好きだから、「あのおばさんは何を考えてて何がしたいんだろう…」って思いながら見ちゃうんです。

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そういうエピソードの中で印象的なものはありますか?

川崎

川崎 悦子/柴田 健児それは日常にやたらにある!私自身、すごく短気なので、すぐ他人に対して怒っちゃうんです。例えば、銀行で並んで待ってた時に、前の人がすごく長くて、それにすごく頭にきちゃったので、小さい声で「早くしてよ…。」って言ったんですけど、振り返ったその人の顔を見たら私の生徒だったんです (笑) 。「あ、先生!」「あら〜!」って、かなり焦りました (笑) 。でも、そういう面白いことっていっぱいあるでしょ。だから、こういうことがムーブメントになったら面白いだろうなって思って。それに、私が形にできることって、こういうことかなって。例えば、みんながクラブで創ってるようなダンスって、私にはすごくかっこいい感じがする。私はそういうところにあまり行ったことがないから、外国人みたいなかっこよさとか、そういうのを私には創れないの。やっぱり自分が行ったことのある場所で、どんなことが行われているかとか、そういう実際の体験に基づいていることなら創れる。だから、かっこいいことは他の方にやっていただいて、自分のやれることをちゃんと創ればいいかなって。

柴田

先生 (=川崎) が怒りんぼうで、そんな日常の経験が作品になる。みんな結構庶民派だから、共感するしね。

川崎

みんなストレス抱えてるもんね。

柴田

ストレスって意外と細かいところにあるけど腹に収められちゃう。でも、それは蓄積すると爆発する。だから、爆発する前に、「タラ・レバ」を観にくると、笑いに変えられるんだよね。芝居で表現すると、「それはそうだけど…」ってただ事実を納得するだけ。でも「タラ・レバ」は踊ってくれるから、発散になる。ダンスっていうものをひとつ挟んで表現されるから、「よくぞやってくれました!」って思える。でも、演じてる側は意外に狙いを持っていないんだよね。狙いどころはあっても、お客さん自身から笑ってくれるから。そりゃ、先生の構成能力だったり、個々のキャラクターもすごいけど、お客さんの顔を見てると、心がこっちにパカッて開いた状態なんだよね。俺は「タラ・レバ」の2作目から出させてもらってるんだけど、お客さんが毎回そんな顔して観る舞台なんて、経験したことない!

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そういう日常のざっくばらんとしたものを、ハイクォリティーなダンスで演出している、というところが面白いですよね。

柴田

そう!面白いところにハイクォリティーが入るから、そのギャップが面白いんだよね。HIROが、ロックンロールでハウスを踊る。ただ、ひたすらに一生懸命踊る。先生がHIROを見た感じで決めたんだけど、アレは、泣けたよね。

川崎

だから、説得力があるんだろうなって思うよ。

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先生から見たメンバーのセンスを、言葉で表現できますか?

川崎

川崎 悦子すごくバランスがいい人たちだと思う。例えば、黄色ばかりあるところに黄色を入れてもつまんない。でも、黄色の中に紺色を入れると、すごく締まったりする。自分は今、何色を落とせばいいのかっていうセンスがすごくいいんだと思う。だから、同じようなものにならない。そう言い切れるのは、お互いに絶対的な信頼を置いているからですね。

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例えばメンバーはそれぞれどんな色なんでしょう?

川崎

うーん。みんな、一色じゃないんだよね。何色にもなれるから。誰がこうだっていう、決められたものがないから。そこがまた面白いんじゃないかな。12色の色鉛筆じゃなくて、36色持ってる、みたいな。中には、折れっぱなしのものとか、芯を出さないものもある (笑)。

柴田

太いままとかね。細い線はどうしても力が入って描けないとか (笑) 。

川崎

一番最初に「タラ・レバ」をやったきっかけは、当時、スタジオパフォーマンスっていうと、作品を楽しむよりも、パフォーマーのお勉強会に付き合わされる感覚で、「何でそれにお金を払わなくちゃいけないんだ!」って思ったこと。そのイメージを変えたかったの。スタジオパフォーマンスのイメージを変えたかったの。スタジオパフォーマンスはバカにできないよって、観に来た人に思わせたかった。面白いことやらなかったら、観に来た人が上手くなろうと思わないでしょ。やっぱり、ああいうのに出たいとか、ああいう風に踊りたいとか思わせないと、やる意味がないと思うから。

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そんなスタジオを飛び出して、この夏は青山円形劇場での公演ですね。決まった時のお気持ちは?

川崎

そもそも、毎回スタジオでの「タラ・レバ」のチケットが即完してしまって、観たいと言う人にちっとも観てもらえなかったんです。でも、毎回手作りでやるのは1週間というのが限界なので。でも、もっと多くの人に知ってもらいたいねっていうのが始まりです。

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このインタビューを読んでいる人に何か見所を教えていただけますか?

川崎

とにかく今回はメンツもスペシャルなので、間違いなく期待していただけると思います。普段クラブイベントのゲストや、バレエ団のソリストだったりする人たちの、めったに見ることのできない姿が見られますよ (笑) 。
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(Update: 2007/06/22)


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