TDM - トウキョウダンスマガジン

TAMAKI・プロダンサーの可能性
でも日本でもどんどん公演とか増えてるしね、Natural Movementz※とか。
だから逆にいえばS.C.S.あたりの影響なんですよ。日本でも公演をやるようになってきた。こういう影響って、その時点では悪くないと思うんですよ。より一般人が見られる場所が広まって行ったから、必要だし、やるべきことだと思うんですよ。

問題は、そこでのダンサーの意識なんです。僕らはたとえステージで踊ろうが何しようがどう自分たちが対処するか。どうやって自分たちのポリシーを守りながら、どう公演で自分たちの新しいステップを踏んで行くか。そういう葛藤を経ながら僕らはステージをやってたんですよ。
※Natural Movementz:TribeやRampage、Fankasticなどのメンバーで構成されるダンサー集団。個々のハイレベルなスキルを生かしたショウは圧巻。2000年7月にも公演を開催。
やっぱり僕とかがショウタイムで踊るときでも、確かにクラブの「ノリ」っていうものをそのままをステージで出せるわけではないと思う。
だから新しいものを作らなきゃいけないんですよ。ステージで、ヒップホップのノリをそのままやったからって面白くはならないんですよ、逆にいえば。ヒップホップのノリをそのままステージにのっけてもそれは単なるショウタイム。ショウタイムと「スペクタクル」、フランスで言うところのショウステージっていうのはまた違うものだし。

逆にフランスっていうのは、オペラとかミュージカル、クラシック、コンテンポラリーなんかのショウステージっていうものに恵まれてたから、それを良く理解してる。そういうステージ型のダンスだったら、フランスは世界でもトップに入るものを持ってるから。
そういうところで自分たちがステージを作る上で具体的には何を考えている?
一番大事なのは、ヒップホップのダンスをいかにステージの上で面白く見せるかっていうことですよね。今日本人のダンサーがショウステージでよくやるお笑いとか、そういうものは違うんですよ。そういうものはダンスじゃないし、カルチャーとして根強く残らない。そうなっちゃうと単なる道化にしかならない。フランスで言うところのクラシックの人たちと、大道芸人の違いですよ。道路でやってる奴は、お笑いをやってる奴も含めて、大道芸人。お笑いをしっかりと構成して音楽やダンスを入れるとミュージカルになるんですよ。ミュージカルと呼ばれるショウステージに。

だから僕らはそれを勉強して、ヒップホップにどうやって取り入れることができるか考えたんです。たとえばTRFの人たちがイスを使って踊ったりするじゃないですか。あれはアメリカでのミュージカルの王道なんですよ。ああいう発想が乏しいのは、日本にとってはすごくもったいないことですよね。いろんな方法があるんですよ、ステージの見せ方や道具の使い方には。自分たちのポリシーを守りながらヒップホップを表現する時には、いくらでもかっこよく道具って使えるんですよ。

見せ方として、最初のころフランスのヒップホップで多かったのは、ストリートをどうストーリーで表現するかっていう試みですね。だから道路の音とかスクラッチとか街の声とかを使って私生活=ストリートの生活を表現するっていう方向で、ヨーロッパのステージは作られてました。僕らはその上を超えようっていう発想があって、じゃあ何を表現するかって考えたときに、映画的な要素をヒップホップで表現できたら面白いんじゃないかっていうことで。だから映画の「スターゲイト」的な要素を取り入れて、子どもからおじいちゃんまで楽しめる雰囲気をヒップホップで表現しようと思って。

うまく「合わせ」をストーリー毎に雰囲気で合わせて行くことによって、一つのストーリーが見えてくるんですよ。人間って、言葉がなくても雰囲気だけで「あ、こういう風に流れてるんだ」って認識することが出来るし。あとは、絵柄なんですよね。立ち位置とか照明とかセット。その中で僕らがやっていることは、いたって普通にクラブでやっている踊りをうまくはめていくってことなんですよ。要するに、自分たちは素直に踊っているんだけど、それがストーリーの中でうまくはまって行くようにする。
それは、具体的にはどういうふうに話しがきたの?どういう流れでこういう公演をすることになった?
それは結局、僕らが最終的にステージで食っていくっていう方法を取ったときに、どういうことができるかなっていう発想なんですよね。やっぱり、フランスという国自体が一番ダンサーに保証しているのは、ステージで踊るってことなんですよ。ステージで公演するってことは国から保証金が出るんですよ。
じゃあ、もともとダンサーとして認められてるところがあるわけですね。
もちろん、「ダンサー」というものの状態がクラシック(のダンサー)とは違います。資格制度(ディプロム)がないじゃないですか、ヒップホップダンサーには。でも、ある程度(きちんとしたものが)出来て、知名度さえあればそういう公演が出来るという状況はクラシックと変わらないんです。

ダンス協会みたいな団体があるんですけど、公演をした数によって国から支払われる金額を監視してるんですよ。で、一回ショウに出る毎に、例えば(国から)1,000フラン(1フラン=約20円 約20,000円)もらうと、そのパーセンテージを(ダンサーが)もらえるんですよ。と言うことは、一回にだいたい300フラン(約6,000円)位貯まっていくんですよ。そうすると、10回出れば3,000フラン(約60,000円)になるし、20回出れば6000フラン(約120,000円)になる。給料以外に国から支払われる金額とすれば、結構でかいですよね。それ以外にも色々保障があります。ここがすごく大事なんですけど、公演に出る人は絶対に食事代と(宿泊するときは)宿泊代が保障されるんですよ。公演費も一人あたり1,000フラン切っちゃいけないし。ということは、どんなに下手なダンサーでも20,000円以下はないんですよ。あり得ない。それと、有名な最低賃金。朝・昼・晩と合わせて、食費は最低2000円はもらえることになってるんですよ。
それはもともとクラシックの方でそういうシステムがあったわけ?
そう。(クラシックには)そういうシステムが生まれてるんですよ、ちゃんと。クラシックのホールを使ってるから僕らもそのシステムが当てはまるんです。で、結果的にそういうところでしか食っていけないから、そういうところで何が出来るかなってことを考えてった上で、生まれたスタイルが僕らのダンススタイルなんですよ。
なるほど。(「職業として食っていく」っていうことについて考えた上で)そういうシステムにはめ込んだっていうのはおもしろいね。でも、(ダンマガの)掲示板の以前の書き込みでは、ヒップホップがヒップホップじゃなくなってしまうんじゃないかと読み取れたところもあったような気もしますが…
ヒップホップだ、ヒップホップじゃないって言う前に、ヒップホップっていう形自体が今まだ僕の中では固まってない気がするんですよね。だから、スタイル的に日本だと固定観念があって、例えばクラブで踊ってお酒飲んで、それがヒップホップだみたいな。でも僕の中ではそれがヒップホップじゃないんですよ。それはあくまでも環境であって、ヒップホップっていうダンス自体はもう既に生まれていて、それが勝手に一人歩きし始めてるんですよね。一方で、ラップというのはもう完全にビジネス化してるじゃないですか。ヒップホップのダンスは未だにそのカテゴリ(=クラブ・酒というような環境)にはめられて踊るしかない。ただ、純粋にヒップホップ自体のダンスの味を出しているのも現実的にはそこ(=環境)なんですよね。

で、その味自体をどうにかして他の方法で作れないのかっていうのが僕の発想なんですよ。僕自体は、クラブという環境がなくてもクラブに似た交流の場所がありさえすれば、そういうものが生まれるだろうと。それをうまく、一般の人たちにも理解できる場所でやっていけば、より社会的にも文化としても根付いていく。フランスというのはステージがあったから、そういう方法しかないんですよ。そういう方法で、社会的に溶け込んでいくという。日本にはまた別の方法があると思うんですよ、色々。そこらへんをどうやっていくかっていうので、僕はクラブ自体を変えていく必要性があるじゃないかなって。世界的にどう見たって日本ほどクラブが多いところはないんですよ。
そのわりに法律がおかしいよう気もしますね。
うん。法律はすごくうるさくて、クラブに対する理解力は全然ないですよね。逆に外国の方はクラブの数は圧倒的に少ないのに、彼らがつぶれる、一つのクラブがつぶれるには最低10年はかかるんですよ。
それは、ヨーロッパの状況?
そう。理由としては、音楽業界とかも(クラブを)後押ししてるっていうのが事実ですよね。
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