TDM - トウキョウダンスマガジン

TDM Special interview「SLAVE 2006」YAS. TAN 3/3

自分のマイナスがあることを受け入れる


Y
先ほど、「SLAVE」は“奴隷”と言いましたが、決していい言葉ではないですよね。いろんな情報のプラスマイナスによって、自分がそうしたいってものでも、世の中では本当はいけない話として曲げられてしまう。性も含めて、そうしたやりたいことをごまかしたくないんです。マイナスが受け入れられなくて目を閉じてしまう…でも、あまりにも辛すぎて受け入れられないことを肯定する理論を作るか、自分に嘘をつくのか、それとも本当にシャットアウトして言い訳にするのか…それを考え始めるんです。そういう新しい理念の自分になったら、世の中にはそういうこともあるよと、そこからはマイナスなものを認めます。自分でマイナスがあることを受け入れた上で進めていかないと「それはできません、すみません。」って言えない弱さを隠してしまいます。

「SLAVE」ではランダムにいろんな色・態度・表現者によって、自分を含めて踊っている人たちはその時の本当の自分で踊ります。このダンサーがその時にごまかさずにリアルに見せられるものが表現されています。それは一体ただの石なのか、ダイヤモンドなのか、純粋にダンスが好き、「SLAVE」が好きっていう気持ちで何ができるのか、そのシンプルな感覚に変わってきました。

今回の構成


Y
人が観て楽しいと思うものと神秘的なものとが混在しています。構想としては「メッセージ」「具体例」「楽しめるものであること」の三つが軸です。メッセージを具体的に表すと、流れで見た時にどう思うか、何かによって縛られているところはどこなのか、それがはっきり目で観るものとして楽しめるものなのか、衣装、音楽でその空間がちゃんと作り上げられているのか、そうしたものを大切にしていますね。難しく考えるのではなくて、素直に楽しかったと思ってもらえるものにしたいです。実際の動きを見ると、華やかで、刺激的で、綺麗な部分ばかりが目立ちますが、踊っていない時の方が人との信頼関係が出ていたりするんですよね。

T
終わったあとに、前向きになれるような単純な楽しさがあるといいですね。こじつけのようなメッセージは送らないです。観て良かったと思ってもらえるような、その人にプラスになるようなものだといいと思います。

世界中で同じ方向を見ることができる数少ない仲間


Y
何億人といる世界の中で、純粋にダンスが好きな人は何人いるんだろうと考えることがあります。LAにいた時、自分のことを知らない人が大勢いて、外国人としてまっさらな状態で存在していました。そう考えると、世界中で同じ方向を見ることができるダンサーは少ないんじゃないかと思ったんです。さらに同じ価値観を持ったダンサーはもっと少ないんじゃないか、自分のエネルギーや熱意を引き出す手段としてたまたまダンスを選んだ数少ない仲間であり同志なんじゃないかと。

そんな風にダンサーとの付き合いかたも考えるようになって、数少ないダンサーの仲間たちのどこを見ながら、何を感じているのか、この人のもともとの気持ちが変わっていった理由は何だろうかと考えます。ただダンスが好きだっただけなのに、いつの間にかダンスをする目的がわからなくなっている…何のためのレッスンなのか、うまくなったら仕事につながるから踊るのか、評価が欲しいから踊るのか。ダンスが表現手段ではなくなっていて、純粋な「好き」を邪魔している縛りを感じたんです。もともとダイヤモンドだった人たちが、ただの石に変わってしまう…原石だったはずなのに。

自分でかっこいいと思ったことが、他の人にも伝わって、違った形で評価されると嬉しくて、自分の気持ちに正直に判断できているのってすごくシンプルです。すごく単純でキラキラしたもの、精神的に一番自分が欲しいもの、純粋にいいと感じるもの、手に入れたいって思える自分の生き方や出している空気は、全て“素”なんだなと思います。邪魔されて立てなかった人たちは石になってしまう。自分もそういう時もあって、そんな人を見ると自分と重なりますね。


YAS.が様々な環境を経て、「自分が自分であること」そして、「自分の在り方」を追求しようとする姿と同じように、流動的で繊細で勢いのある「SLAVE」が彼の精神の中に存在していた。おそらく、「SLAVE」を構成するメンバー全員がその世界を持っているのだろう。そのエネルギーが一つでも欠けても成り立たない…。「演出力」を演出の能力というなら、大きなイメージが目の前に描けるYAS.は演出力の才能の持ち主と呼べるだろう。原点を考え、頂点を目指す。「SLAVE」はリアルなエネルギーとして存在していた。
'06/11/02 UPDATE
Interviewer:AKIKO
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2006.11.09(Thu)&11.10(Fri)
「SLAVE 2006」の詳細はこちら。



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