TDM - トウキョウダンスマガジン

ダンス雑誌編集長対談〜ダンスを書き伝える者たち〜

ダンサーとミュージシャンの共存共栄の可能性。


TDM

『ダンス・スタイル』さんは、他の二誌とは違って有料の雑誌媒体としての役割、存在意義をどのように感じていらっしゃいますか?

石原

石原先ほどもいいましたが、いろんな業界とコラボレーションして、ダンスというコアなものから、ダンス界が広がっていける役目を担えればいいなと思いますね。『ダンス・スタイル』の担当になって、初めてダンサーと会った時に、不良っぽい子もいるし、意外にちゃんとしてる子もいるし、サラリーマンみたいな子もいるし、色々魅力的な子もいっぱいいると思ったんだけど、ミュージシャンと比べると、まず、印税で食べていけない、そこがまずデカイなと。ダンスシーンをロックシーンみたいにしようとしても、収入源として印税がないから、「現場で踊っていくら」っていう不安定な収入状況が続いてしまう。

しかし、いまやCDが売れなくなり、音楽業界全体も食べれなくなっている時代。そうなると、生の現場、ライブに立ち返るわけですよ。となると、生の現場でいかに充実した表現をしてお金を落としてもらうのか、という意味で、結局ダンサーと近い状況になる。

TDM

ミュージシャンも収入が得られなくなってきているんですね。

石原

その象徴的な事件として、マドンナもレコード会社ではなく、ライブイベント制作会社と契約したり、レディオヘッドも0円から音源を売ったり、プリンスが新聞にCDをつけて巻いちゃったり、CDで稼げなくなることがわかったトップアーティストたちがそういう方法に行き始めた。すべて、ライブに来てもらうためのツールになったわけですよ。

TDM

ある意味時代の流れでは、ライブで見せているダンサーからすると、ミュージシャンと近い場所になってきているわけですよね。

石原

これはより接近するチャンスだと思うんです。困っている業界同士、手を取り合ってやりましょう、と。例えば、ジャンル別のイベントでも、DJイベントとダンスイベントが分かれているので、同じジャンルを好きな人が集まっているんだし、一緒にやればいいのにと思いますね。

主従関係でなく、アーティストとダンサーが本当にイコールの関係として手を組めば、両方のお客さんが半々入るかもしれない。まぁ、全然違うジャンルの人がそれぞれのプライドをかけて「俺には俺のやり方がある」って思うだろうし、認められない部分も絶対あると思うので、歩み寄るには軋轢はあるでしょうね。あと、ダンスと生演奏で踊るのは、かなり演奏のレベルが高くないとできない。セミプロくらいじゃないとダンサーと魅せるのは難しいと思います。アドリブやアクシデントを楽しめる余裕があると、もっと面白い表現になるでしょうね。

ミュージシャンもライブに人を呼ばなきゃいけないから、今までとは違ったやり方を模索していると思いますし、違ったお客さんも探していると思います。なので、両者の生き残る道として、若い子たちにどんどん手を取りあっていってほしいと思いますね。

TDM

そうですね。ダンサーもライブの現場で生きていけるのはいいですね。一般の方たちとの交流にもなるし、その実現に期待したいです。

石原

“音楽とダンス”の関係という意味では、レゲエは本当に成功している例なんです。横浜レゲエ祭でKIYOちゃんやJUNKOちゃんが出ると「ウォーー!」ってなりますからね。それだけ認知されているんですよ。レゲエダンス自体の傾向も変わりましたよね。一般の人が入りやすいものになっているからこそ、レゲエ祭でも毎年3万人もの人が集まっている状況になっていますしね。

横浜レゲエ祭 :
1995年から神奈川県横浜市で行われている日本最大のレゲエミュージックフェスティバル。今年も3万人を動員し、レゲエファンが融合した。横浜以外にも福岡、愛知、三陸などでもレゲエフェスが開催されている。


まぁ、でも徐々に変わってきてはいますが、急速に変わることは難しいんでしょうね。でも、僕がダンス業界に携わって3年足らずなのに、相当シーン自体が変わってきていると感じますから、積み重ねでしょう。

メディアがダンスシーンのためにできること。

TDM

『ムーヴメント』さんは、無料で提供できる情報媒体としての展望や考えなどはありますか?

高橋

展望というか、一都三県特化系で10万部発行しているのが売りなので、今後ダンスシーンが大きくなっていって、地方のダンスシーンが熱ければ、地方版の発行など、シーンの拡大と共に事業も大きくなればいいですね。

高橋あとは、やりたいことなんですが、せっかくこういう機会に同じダンス市場にいる二誌さんとお話できているので、コラボというか何か一緒にやってみたいです。

僕はとにかくダンサーの生産性を上げていきたい。ただ、雑誌はそのいちメディアでしかなく、どう頑張ったって限りがある。実際、いい記事を書くことくらいです。でも、今できることとしたら、コラボレーションだと思うんです。それぞれの事情があるとは思いますが、ダンサーが頑張るだけではなく、何かメディアとして頑張れることとしては、手を組んで何かをやってみることを、僕は強く思っていますね。
ダンサーの生産性があがれば必然としてメディア側としての事業も比例して付いてくるものと確信しているので。


石原

いやいや、ぜひやりたいですね。“みんなで上がっていこう”みたいな (笑) 。

工藤

ホントに、なんかできたらいいですね!


高橋

まぁ、でも、ダンスシーンを長い目で見た時に、サブカルチャーやアンダーグラウンドで、お互いの営利ばかりを見ていたら怖いと思いますね。本当の意味で押し上げるのであれば、企業同士も横のつながりを持っていく、これがこれからのあり方だと思います。

石原

共存共栄ですよね。興業的に見ても、イベントやメディアが取り合いや囲い込みとかいがみ合っていても、まずダンサーが損しちゃいますよね。結局本来の目的である、ダンサーの広がりが本末転倒になっちゃいますからね。

高橋

その競争心はやはりメディアという立場でのクリエイターとして、当然の領域だとは思うんですが、難しいところですよね。

内側と外側での疎外感。

工藤

工藤その点でいいたいのが、情報発信側のクリエイターの育成をもう少ししたいですね。表に出るのももちろんですが、裏を固められなければ、業界としては成り立ちません。そういう状態になりつつあると思うんですね。演劇業界なら、「始めっから裏方を目指したい!」って人はいますが、ダンスではあまりにもいない。ダンスシーンを支える裏方として頑張ろうと思う意識のある人間も少ないし、その受け入れ体制もまだまだ狭いと思います。

先ほども言いましたが、日本のダンサーを僕は世界最高峰だと思います。でも、なぜ広がらないかというと、どんなにダンス業界が膨らんでも、裏方の業界が確立されていないから。ダンスの写真を撮るプロとか、ダンスの記事を書くプロの人たちなどの人権が、もっとしっかり認められて食べていけるようにならないと。

石原

裏方にしても、裏方の人がプロ意識持って、プライド持って、自分のやってることを高めてやるぞっていう意識でやってないと、中途半端な人が裏方にいても、全体のクオリティが上がらないと思います。

工藤

プロ意識を持ってる人材も少ないですし、逆に、プロ意識を持ってる人間が受け入れられる体制がない。だから、どんどんダンスが広がっていっても、ちゃんと企業と交渉できる術を持った人や、そういう人が足を踏み入れられない。

石原

たぶんダンサーたちも疎外感を感じていて、僕ら外からの人間も排他的なにおいを感じて、なんだか損ですね。それは対話が必要なだけですよ。話せばわかる。

TDM

結局我々も今日こうして初めてお話ができて、色々わかって、もちろんそれぞれに負担のないような協力体制の下、何か一緒にやっていけたらいいという一つの意見が導かれたのは、今日お集まりいただいた意味があったのかなと感じます。

最近のTDMでのインタビューでも皆さん同じことを感じていらっしゃいました。何かしらダンスシーンとしてやりたい意識もあるし、できる自信もある。でも、方法がわからない、やはりダンサー同士に向けてのスクールやイベントでそのエネルギーを消化する。みんな自分だけだとどうしようもない、っていう気持ちがまとまって形になった時に何かできるんじゃないか。我々メディア同士も一緒にやろうという意識だったら、何かできると思いますね。

便利なスーパーと味わい深い個人商店の行方。

TDM

では、最後に、ダンスシーンはどうなっていくと思いますか?

高橋

ポピュラー化した形で膨らんでいくのではと思います。

工藤

はい、膨らんでいく感はあります。ただ、骨がない状況になりそうな気もしますけれども・・・。つまり、かつてのストリートダンスと、20年後のストリートダンスは違う文化ではないかと思いますね。

石原

石原うん、そうですね。規模というか、踊る人の数は増えていくと思いますね。フィットネスや学校などで、踊る楽しみを得れるチャンスは増えると思うので、ダンサー自体は増えていくと思いますね。ただ、さっきもいったように、音楽と剥離してダンスだけ好きっていう子たちが大人になったら、どういうダンスシーンになっていくのか・・・。あとは、大学生のダンサーが現れて、社会的にきちんとビジネスをやっていける人間がダンス界を背負っているという現状も、今後変わっていく要因になると思います。

昔だったら、ダンスをやっている人間が、営業もやり、宣伝もやり、手作りイベントしかできなかったものが、大学でしっかり学んできて、社会との接点を持っている人がダンサーになっているので、プロのビジネスができるという意味では、どんどんいい方向になると思いますよ。ただ、その反面アンダーグラウンド的なかっこよさというのは、うーん・・・詰まっていくのかな。なくなって欲しくないですね。

工藤

個人商店がスーパーになるようなものでしょうか。今までのダンス界は個人商店で、義理人情があって、近所のおばちゃんと挨拶していたような時代が、大手のスーパーに、まだなってはいないですけど、なりつつある変革期というか。

石原

そこには個性的な商品は並んでいないかもしれない。この間、豊洲にいったんですけどね、駅を降りるとららぽーと (ショッピングモール) しかないんですよ。周りには個人商店とかもない。というコトは、この人たちはほとんど同じ食材を買って、同じものを食べて、何なら同じ服を着る人たちなのかと。個人商店のちょっと頑固親父の作る変わった味を味わえない。そう考えると工藤さんのおっしゃったことは正にそうで、マーケティングデータの取れた、受けるものがいっぱい並ぶようになって、個性的なものが出てこなくなる。でも、でかくなるということはそういうことなのかなと。画一的になるというか。

工藤

当然、淘汰はされますが、個人商店も残るとは思いますけどね。

TDM

具体的に個人商店がスーパーになるというのはダンスシーンでいうとどういう現象でしょうか?

高橋

例えばダンススタジオ店舗さんがよりセグメントされてしまう、とか。

工藤

より大衆化して、ちょっとダンスがコンビニ感覚になるというか。

石原

“ストリートダンスっていうのはこういう風に習いますよ”っていう、教科書ができて、みんな同じ踊りをして、“こういうダンスが受けるんだよ”っていうデータもあって、町のスタジオで教える変わり者の先生の変なダンスというのは出てこなくなっちゃうのかな。

まぁ、でも、これはシーン拡大の心配な面を見れば、ですよ。それよりも、僕は大きくなっていくほうを応援したいですね。

高橋

ええ、そういったセグメント化は必然かなと思いますね。

工藤

市場が大きくなるということはそういうことかもしれませんね。

高橋

でも、やっぱりサブカルチャーとしてのストリートダンスという原点はいつまでも残って欲しいと思いますので、そういうところこそ、メディアの存在意義はストリートが持っていると思うので。ダンスはどんどん広がってもらっていいですけれど、そのちょっとした隙間のサブカルチャーのダンスっていうところに、ストリートのかっこよさがあるエンターテイメントには誇りを持ちながら仕事をしていきたいなと思います。

TDM

踊りという面では、一般の人には広まってもらいたい。でも、上手くいいところもちゃんと残せるようなシーンの作り方をしたいですね。我々、情報発信の立場からも。何か我々で一緒にできるといいですね。今日は長い時間、ありがとうございました!
photo by imu
interview by AKIKO
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