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牧宗孝 〜 表現欲。〜
牧宗孝 〜 表現欲。〜
牧宗孝が主宰を務めるVanilla Grotesque第3回公演が迫っている。東京☆キッズのメンバーMIKEYとしてその才能を開花させ、今やダンスカンパニー“バニグロ”を束ねる存在となっている彼のルーツには、なんとTDMが深く関わっていた…?あふれ出してくる表現欲のつまった彼の頭の中をのぞかせて頂こう。

牧宗孝牧宗孝

ダンスカンパニー「Vanilla Grotesque」主宰、ダンスチーム「東京★キッズ」リーダー、演出家。退廃的な美を基調とした独特の世界観は前衛的ながらキャッチーであり、多くのオーディエンスを魅了している。昨年4月に開催された旗揚げ公演は完売御礼、初めて彼の世界観に触れる者をも虜にした。舞台「渋谷アリス」ほか、国内外のショーにも多数出演。
http://vanigro.com/

心動かされるキーワード・・・不幸!

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(チラシを見ながら) 前回の公演もインパクトを受けましたが、今回もすごい感性で攻めてきましたね (笑) 。

牧宗孝

今回のタイトルでもある「林檎」って書いておきながら、この木は梅の木です (笑) 。そもそも、チラシの締切が近づいてきて、何もテーマが浮かばなくて、着たい服もなかったので、木に裸で登ればなんとなく絵になるかなと思って登ってみた結果です。次の日インフルエンザになりました (笑) 。でも結局、それで素敵に仕上がったし、無計画でも直感での思い付きが形になることが多いんです。

今回は一部がコレオグラフナンバーで、二部が「林檎」っていうテーマの演出をした作品になっています。前回はいろんなテーマの作品をやったんですけど、今回はひとつのテーマなので、正直創るのが難しくて・・・もう放棄したいです (笑) 。

前回は、自分の持ってる引き出しをとりあえず全部見せました!っていう感じで、終わった後、自分に何もなくなっちゃって、軽く欝になりまして (笑) 。思いついたことを見せすぎちゃって、抜け殻状態でしたね。

今回はあの10個あった作品の内の、ひとつを拡大すればいいんじゃないかと思ったんです。料理に例えるなら、前回はメインディッシュがたくさんあったんですけど、今回は前菜から見せていきたいというか。前回のナンバーの中に、DVを題材にしたものがあったんですけど、あれをストーリーの軸にしたら何か生まれると思って、そんな舞台になると思います。

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MIKEYの心動かされるキーワードって何?

牧宗孝

不幸!昔から不幸なことにしか心が動かされないんです。アーティストのライブとか、ハッピーなもの、アガっていくものよりも、暗い映画とか音楽のほうが好きで。そっちの感情の方が自分の感性が広がるんですよね。

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確かに、陰 (いん) なものの魅力はあると思う。DAZZLEも「不安な音とか聞くと、ゾクゾクしちゃいます」って言ってたなぁ。でも、MIKEYの作品には暗さの中に、派手さや過激さがある。そういうバランスは?

牧宗孝

そうですね。意図的に作っているかもしれないです。悲しいシーンの前にはそうじゃないものを持ってきたほうが展開を落とせるから、陰じゃないものを創ったりします。前回はパンダで踊ったり、笑いの部分は自分の中ではあります。

“聖徳太子”との出会い。あれを超える衝撃にはまだ出会ってない。

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ダンスはどういうきっかけで始めたの?

牧宗孝

もともとダンスというか、日本舞踊や日本囃子 (ばやし) から入っていきました。日本囃子っていうのは、言葉や音楽ではやし立てることで、獅子舞とかああいう祭りの激しさがあります。

その後、DABDABに出てた聖徳太子っていうチームのマイケル1曲使いのショウを見たときに「あ、日本囃子だ!」って思ったんです。あの噛み付くような威嚇する感じが、日本囃子で狐っていう踊りのエネルギーと似ていて、「うわーかっけー!」って思いました。そこからジャズや、ストリート寄りのダンスに入っていきましたね。

特に、MICHIKOさん、あのキレと表情はすごかった。顔で踊ってた。あれを超える衝撃にはまだ出会ってないです。トウキョウダンスマガジンさんで見れる聖徳太子の動画は、たぶん千回ぐらい再生してますよ (笑) 。動画で見てた聖徳太子のサイトに取材していただけているなんて驚きです。あと、昔DABDABにNAOTO君のユニットで出たことがあったのを思い出しました!あの聖徳太子さんも出てたイベントに自分も出れるようになったんだ!って感動したのを覚えてます。

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そういうキッカケを作れたイベントになっていることを嬉しく思います。ダンスをやってる人って、ダンス以上の衝撃を超えるものがないから踊り続けてる方という方が多いかもしれない。

牧宗孝

当時、MICHIKOさんが島谷ひとみさんのバックダンスをやっていらしたので、MICHIKOさんを見たいがために、ライブ映像を録画して振りを覚えて、一瞬映り込むMICHIKOさんのマネをしてました。それが最初の自分のダンスの勉強です。

その頃から、安田ビルでMICHIKOさんのマネを練習するようになって、そこでちょっとずつダンサーの仲間が増えていって、一番最初に組んだチームが、聖徳太子をパクって金閣寺っていうチームでした (笑) 。

“金閣寺”時代。女性として踊ってました。


牧宗孝

MICHIKOさんに次ぐ衝撃を受けたのが、OH GIRL!のMAIKOさんでした。MAIKOさんも顔で踊る。そう思うと、自分は顔が好きなんですよね。思い返せば、日本囃子に魅せられたのも、狐のお面の影響でした。

僕は絵を描くのが好きで、特に顔なんですけど、その当時のノートは、狐のお面の絵ばかり描いてました。ダンスを見るときも、顔ばっかり見ちゃうんです。“あ!今の一瞬の顔、めっちゃかっこよかった!”って思ってます。

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:ストリートダンス業界には抵抗はなかったんだね。金閣寺と東京☆KIIDSで変化したところは?

牧宗孝

やってることは一緒かもしれないです。まぁ、衣装とかは全然違うかもしれ・・・いや、違くもないですね (笑) 。唯一東京☆キッズと違うことは、今は男として踊っていることですね。

実は、金閣寺では、男を隠して女装して女性として出ていたんです。19・20歳の頃で、もっと女っぽくて、女装しても誰も気づかなくて、ラッパーとかにナンパされてました(笑) 。相方は女性だったんですけど、ニューハーフっぽかったから、上手く調和してたんだと思います (笑) 。当時はムダ毛の処理とか、話し声とかに気を使ってたんですけど、今は牧宗孝として気持ちよく踊れています。

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女装をして踊っていた理由は?

牧宗孝

当時は今みたいに男でジャズダンスを踊る人がいなかったんです。男はポップかヒップホップかハウスがほとんどだった気がします。男の格好でジャズを踊るということにも違和感がありました。ジャズを踊るなら、女の格好の方が違和感がなかったんです。

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それにしては過激なビジュアルに辿り着いているよね。

牧宗孝

ドラッグクィーンの影響が大きいですね。東京☆キッズの初期に、ドラッグクイーンのショーに挟まれて、唯一ダンスショーをやらせてもらったんですけど、その時に凄く影響されました。昔の東京☆キッズはメイクをそこまでしてなかったんですけど、ドラッグクイーンたちを見てから、中途半端にやるならとことんやっちゃおうかなと思いました。東京☆キッズが過激になったのはそれからですね。

東京☆キッズの存在。


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MIKEYにとって相方MAIKOちゃんの魅力は?

牧宗孝

チームとしては彼女以外の人とは一緒に踊れないです。ミチコさん、MAIKOさんは置いておいて、好きなダンサーだし、感性や踊り方も含めて、自分の中の分身みたいなものですかね。自分が女だったら、MAIKOみたいな感じというか。

ダンスにおける見てきたものや好きなものが一緒なので、お互いがこうしたいって言うと「自分もそう考えてた!」ってなります。MAIKOからも「自分の振付や世界観よりも、MIKEYの世界観の中で踊る方が気持ち良いし、好き。やりたいことをやってくれる。」と言われます。

ある意味、MAIKOとはいいライバルです。僕は“うまくなりたい”とはあまり思わないタイプで、自主練もあまりしません。でも、MAIKOは正反対で、すごくダンスに対して貪欲で、“うまくなりたい!”っていつも思っているので、何でそんなに頑張れるんだろうって感心します。MAIKOは自分のことを見つめられていてすごいなと。

自分にしか産み出せないことをやったほうが、意味がある。


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これまでに転機になった出来事はありますか?

牧宗孝

金閣寺の頃、どちらかというとダンスは趣味で、もともと歌手としてデビューしたかったんです。けど、「今の自分には無理だな。今歌っても嘘だな。」って悟った瞬間があって。もっと人間的に成長しないと歌っちゃダメだなって思ったんです。それで、小さい頃から歌手になるのが夢だったのに、20歳のときに歌を辞めて、ダンスにのめりこんでいって、こうなっちゃいました。その頃、聖徳太子のあのショウを見たからこそ、ダンスに本気になれたし、すごく感謝しています。

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今はダンサーの傍ら、音楽活動もしているよね。

牧宗孝

そうです。そう考えると、年々歳を重ねるごとに、自分の中での哲学だったものが本質的になっている感じがします。

10代とか若い頃は、自分じゃないものになろうとしちゃうんですけど、それが、逆にだんだんかっこ悪いことに思えてきて、それを自分がやるための理由と自分だからできる本質的なものがあるはずだって思ってきたんです。

もともとブラックカルチャーがすごく好きだったので、ソウルやR&Bを歌ってたんですけど、自分の歌を聞くよりはアレサ・フランクリンを聞くほうがいい。ホイットニー・ヒューストンみたいにバラードを歌いたい!って言っても、もういるじゃん!って思えてきて。自分のやろうとすることは、世の中にもうあるじゃんって思ったんです。

だったら、日本人で在って、こういうアイデンティティーを持った自分にしか産み出せないことをやったほうが、存在価値が産み出せるし、意味がある。そう思ってから、デビューしたい気持ちもなくなったし、いい意味で“こうじゃなきゃいけない”っていうこだわりがなくなったんです。こだわらない方が、逆に個性で、自分っぽいじゃないかなぁって思ってから、作品を創るのが楽になりました。

名を残してるアーティストや偉人の方たちってその人の代わりがいない。やっていることや存在、技術的にもそういう人になりたいです。

美輪明宏さんを超えたい! 


牧宗孝

でも、ダンスは表現方法のひとつでしかなくて、お客さんに伝える手段というか、もしかしたら、10年後はダンスじゃないもので何かを表現しているかもしれません。自分が生きてきて感じてきた不幸や悲しみとかって、どういう形にしろ、何かにぶつけたいって思うんです。それが今はダンスと歌で今の等身大の自分が表現できています。 今日ちょうど、美輪明宏さんの舞台「毛皮のマリー」を観てきたんですが、それがまた衝撃的でめっちゃ泣きました。

歌もダンスもありましたが、お芝居の部分を見て、演技や台詞の表現もいいなと思いました。ただ、やはり自分はできないので、将来やるとしたら、役者を入れて作品を創る形になると思うんですけど。歌とか踊りを超えた言葉の感動も舞台にはあるなと思います。

でも、悔しかったのが、少しダンスを演出に使っていて、これはドラッグクイーンのショウを見ても思うんですけど、正直ダンスだけに関して言ってしまうと、ダンサーの視点から見たときに、クオリティが低いんです。たぶん美輪さんとストリートダンスって遠いとは思うんですけど・・・きっとダンサーの価値をそこまで高く見てないのかも。そこにまでダンスシーンの良質なものが入っていたら、もっとすごくなるのになーなんて思って、どうせならバニグロを使ってよ!と思いました (笑) 。手紙書こうかな!バニグロにも観に来ていただきたいし!読んでもらえなくてもいいから出すだけ出してみたい。

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ダンサーが他者と繋がって作品を作れることは大切ですね。TDMもダンスの良さを世に普及していくため、ダンスを中心とするほかのカルチャーを対象に発信しているから、踊れる場所を多く作っていきたいと思っています。

ダンスを必要とされるには、まずダンスを知ってもらい、知ったときに必要だと思われるために、こちらから動かなくてはいけない。そのうちに他者からの「やってみる?」が、「やってください。」に変わっていく様に、自分が必要とされたいと思う場所なんだったら、どんどん行くべきだと思うな。

牧宗孝

美輪さんの舞台は本当にセットも照明も豪華で、お花も一流の人からたくさん届いていて、本当にすごかったです。あぁ・・・この人を超えたい! (笑) 。

今はダンスが自分の武器というか、表現として自分に合っていると思うので、違う畑の人に見てもらい認めてもらえた様ですごく嬉しいので、今後もどんどんやっていきたいです。クラブはダンサー同士でしか接点がないので、今は舞台ですが、もっとダンスを知らない人に見てもらう機会が増えるといいですね。

バニグロの組織化。真っ白な表現者たち。


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今後のビジョンは?

牧宗孝

バニグロをカンパニーとして組織化することですね。やっぱり大きいことをやろうとしていると、組織として足りない部分が多いので、カンパニーとしてちゃんと成立させたいです。

今、バニグロの固定メンバーとしてやっていこうと思ってくれる子たちの中に、就職するか、バニグロとして頑張っていくかの選択する年代が多くて、こちらは絶対食べていける約束ができないから、そこに賭けてくれるだけのバニグロへの情熱とその育成が今の課題かなと思います。

気をつけているのは、美輪さんがおっしゃっていたことなんですが、人を叱るには叱るだけの資格が必要。いくら、「我を忘れて表現しなさい!」って言っても、自分ができていなかったら誰も聞いてくれないし、自分が尊敬されていなければ誰もついてこない。だから、意見を言う前に、自分がそれをできるかどうか、考えます。だから、自分が下の子たちに意見をいうには、自分がそうでなければいけないので、そこを意識しています。

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どんな言葉を書けることが多いですか?

牧宗孝

いつも言うのは“恥を捨てろ”。バニグロはグァーッと気持ちを出す踊り方や作品が多いので、ちょっとでも内気だったり客観的だと注意します。あとは、出捌けのこととか、舞台上で素になるなとか、ですね。

毎回オーディションをして参加者を募ってるんですが、やはり、自分のこだわりややりたいことに共感してくれる子たちが残っていると思います。今回のメンバーも特にいろいろ言わなくてもわかってくれる子たちばかりなのですごくやりやすいです。

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オーディションの合格基準はどんなところですか?

牧宗孝

これは良くも悪くも取れるんですが、我が強くない子、真っ白な子、なんにでも柔軟に染まれる子ですね。自分の色だけを主張するのではなく、自分が求める世界にしっかり浸透してくれるなっていう子を選びますね。ダンサーとして上手いし、キャラも確立しているんだけど、「こうして」って言いづらいダンサーは逆に落として、キャンバスにまだ何も色がない白いダンサーを選びます。

不思議なことに、僕は習ったこともないのに、全員もともとクラシックやモダンのバレエ経験者だったんです。もしかしたら、そういう基礎の動きができる子たちが好きなのかもしれないですね・・・あ、だから白い子たちなのか。今、自分の中で納得できました (笑) 。

影響を受けるものと、自分から出すもののバランス感覚。


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今はダンスを表現方法として使っていくのが合っているんだろうね。

牧宗孝

だといいんですけど・・・前回で引き出しが全部なくなっちゃうようなヤツですから (笑) 。

影響を受けるものと、自分から出すものとの、そのバランスが大事なんですよね。前回はあんまり食べてないのに出すもの全部出しちゃったって感じなので。今回は少しでも肥やしになるものを見て取り入れていかなきゃと思って、今日は美輪さんを観てきました。

人のレッスンもたまにLAで集中的に受けるくらいで、日本でミチコさんとMAIKOさんがレッスンをやってたら絶対通うのに、お二人ともやってないんですよね。あと、自分はこだわりすぎるとダメなんだと前回学んだので、今回は次につながるように、今の舞台をやりながら、次の公演の内容を考える余裕を少し覚えました。

次はめっちゃお笑いをやりたいんです。『金玉なんかいらない』っていう曲を書いたんですけど、その曲での作品は、エイズとかの問題を暗喩して、最後にコンドームを投げて終わるとか、みんなで献血に行こう!とか、そういう運動的なこともやってみたいなって (笑) 。

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話を聞いてると、美輪さんやそういう社会運動に反応しているから、まだまだいろんな演目がMIKEY君から出てくる気がするな。

牧宗孝

そうですね。もっと他の分野と接してみたいです。たとえば、今はフラワーアレンジメントとダンスのコラボレーションを創ってみたくて。

あとは、あるひとつの花を描きたい芸術家がいて、なかなか描けなくて、次第にドラッグに走り、最後に血を吐いたときに、そこにカンバスがあって、バッとついた血で花びらになって、「描けた!バタッ」と死ぬ・・・っていう作品を昔から頭に描いているんですよね。

あとは海外でもやってみたいですね。ロンドン、パリ、ニューヨーク、そういう芸術的なところでやりたいですね。

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ダンスを文化的なものに昇華して、文明の場で活かされるといいね。今度の公演も頑張ってください!
'09/04/21 UPDATE
interview & photo by AKIKO & imu
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