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黒木由美 〜 Nature does nothing in vain. 〜
黒木由美 〜 Nature does nothing in vain. 〜
初めの出逢いは彼女がニューヨークから帰国してすぐの2004年。イベントでご一緒した時、サルサ世界チャンピオンのパートナーとしてワールドツアーに回った功績を裏付ける、キレがあり隙のないソロパフォーマンスがとても印象的だった。一つ一つを完璧にしていく作品創りの姿勢と「本番当日、納得いく踊りを踊れていない自分を見るのが嫌だから練習するんですよね。」という言葉がすごくしっくりくる。

舞台を創ることを考えたら苦しさが永遠に続くように感じてしまうと語るストイックな彼女だからこそ、一流のダンサー陣が彼女の作品に参加する。新しいことを創り出すことにこだわるけど、一般の方が見やすいベタなモノ作り・・・コレが難しい。話すと律儀で良く笑うピュアなエネルギーの持ち主、黒木由美のインタビュー。

黒木由美黒木由美

「JIL Entertainment Gallery」主宰。

2歳よりクラシックバレエ、5歳でモダンバレエを始め、15歳にてボールルームダンスと出逢い深く感銘を受ける。 元全日本プロフェッショナルラテンチャンピオン・桑原明男氏に師事し、プロフェッショナルボールルーム競技会でプロとして活躍する傍ら、日本女子体育短期大学舞踊専攻を首席で卒業。

同短期大学にて、クラシックバレエ・モダンダンス・ジャズダンス・タップダンス・フラメンコ・日本舞踊等を学び、その後HIP HOP・FUNK JAZZにも活躍の幅を広げる。 テレビ東京「RAVE2001」でチャンピオン・MVDに輝き、その後はPVやテレビコマーシャルなど様々なダンスシーンで活躍。

2000年渡米。活躍の拠点をニューヨークに移した翌年、伝説のショーケース「アポロシアター アマチュアナイト」に出場し、HIP HOPチーム「BiTriP」の一員として日本人初のグランドチ ャンピオンに輝く。その後は客船QEU(クイーンエリザベスU世号)でのショーへの出演や、MTVなどのメディアで活動。 2003年には同年のワールドサルサチャンピオンであるJhesus Aponte氏に見出され、彼のパートナーとしてアメリカ、ヨーロッパ各地でサルサフェスティバルにゲストダンサーとして出演。その一方でマイケル・ジャクソンの芸能30周年イベントオーディションで最終審査まで勝ち上がるなど、様々なジャンルでその才能を発揮する。

2004年7月に帰国。海外での経験を活かし、「JIL Entertainment Gallery」を立ち上げる。同カンパニーでは構成・振り付け・演出・コスチュームデザイン・制作等トータル的に手掛け様々なジャンルに精通するからこそ表現できうる独自の世界観で観客を魅了する。

黒木由美 〜 Nature does nothing in vain. 〜

今度のJILはストーリー仕立て。

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今度のJIL Entertainment Gallery(以下:JIL)はどういう公演になりそうですか?

黒木

今回は、初めて、ナンバーとナンバーの間にプロの役者さん2名に入ってもらって、歌はないのでミュージカルではないのですが、ダンスベースでストーリー仕立てになっています。前回のアンケートにも、「ミュージカルっぽいもの、ストーリー仕立てを観てみたい。」というご意見が結構あったんです。

私自身は踊り畑の人間で、歌や芝居のかわりにその物語を踊りで表現していくものだと思っていたので、役者さんと絡むことはあまり考えていませんでした。でも、今回は演出のイメージに“ダーツショー”というコンセプトが決まっていたので、ストーリーテラーが必要だなと思い、あるとき、ふと役者さんにお願いしてみたらおもしろいんじゃないかと思ってご依頼させていただきました。

あくまでも、ダンスカンパニーのショーですのでダンスがメインのショーなのですが、ダンスも役者も一流という相乗効果で、お客様に満足していただけるクオリティの物にしたいと思いました。

原作を私が考え、脚本家さんに脚本にしてもらい、それをまた私ともう一人のスタッフさんで手直ししましたが、結局、すべてのイメージは私の頭の中にしかないので、役者さんのリハーサルにも参加して、「この台詞を言うときにはここに出て来てください。」という、いわゆる演出もさせていただきました。

初めてのことなので本当に大変で…もう、頭がおかしくなりそうでしたが(笑)。

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逆に言えば、明確にそこまで指示ができるのは、才能だと思います。

黒木

自分でも、びっくりしているんです。舞台や役者さんの演技をたくさん観てきたというわけではないので、自分が原案を考えて、脚本が完成したときに、「このとき、これをしゃべっている人は、この立ち位置しかあり得ない」ということが頭の中に浮かんできて、ほとんど悩まずに全部のシーンをクリアに出せたんです。

でも、それは頭の中に勝手に出て来ただけであって、良いかどうかはわからない(笑)。今回のスタッフさんの中に、プロで演技のお仕事をされている方がいて、「由美さん、演技的にはこっちの方がいいかも」というアドバイスをその場で下さったのでとても助かりました。でも、結局9割8分は私が思った通りにさせてくださいましたね。

1+1が2ではない、パートナリングの魅力。


黒木

JILは今回で2回目の公演になりますが、私は、変な言い方ですけど、「いつでも辞められる!」と思ってやっています。そこだけ聞くと無責任に聞こえるかもしれませんが...。

もちろん、たくさんのメンバーが集まってくれて、スタッフさんも動いてくださって、そんなに簡単に、私が辛いからといって辞められないことはわかっているんですけど(笑)。そればっかりを考えていると、がんじがらめになって、私はもうこの苦しみから逃れられないんだという気持ちになっちゃうときがあるんです。ですから「辞められる」と考えることで、結果的にはもう一度落ち着いてがんばることができるんですが。


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がんじがらめかぁ・・・。私は忙しいピークのときほど遊びに行こうと思うことがあるかもしれないです。

黒木

黒木 : あ、それできてないかも。いや、でも確かに、仕事のできる人を見ていると、その節、ありますね。忙しいときこそ、かわいい服を来て遊びに繰り出す人が多いかもしれない。それは、ダンス業界だけに限らず、お仕事ができる人ほど、プライベートも充実しているし、仕事もバリバリ人以上にやっている。

忙しいはずなのに、土日とかは遊んだ内容をツイッターでつぶやいているし。いろんなことができている人は、遊びも仕事もどうにかやろうとする能力が高いんだろうなと。

今年の夏にJILのみんなで海に行ったんです。今から苦しい日々になるだろうし、思い切り遊ぼうと思って。でも、私は海を見ながら、やらなきゃいけないことがこの波のようにたくさんあるのに、海に来ていていいのかな…と思ったりもしました。本番に向けてみんなの結束を高めたいという気持ちがとても強かったので私の中では、あの日は遊びであって遊びだけではなかったですね。

朝から晩まで、起きた瞬間から眠る瞬間まで、公演のことばかり考えて、そのことのために動いてる・・・でも、はっきり言って、お金になっているわけじゃないですからね。もちろん、気持ち的には、プロとしてやっていますが、お金を生むものがプロフェッショナルの仕事と定義するならば、これは、壮大で、大掛かりな趣味でしかない。

お金のためにJILを運営して、仕事としてだけで考えるんだったら、もっと賢く、ビジネスライクに立ち回れて、かつ振付も素早く上手にできる方がたくさんいらっしゃるので、そういう方が代表を務めるのが正しい形かなと思うんです。

けど、やっぱりそこだけではないなと思っています。言い方は大げさですが、芸術としてダンスを追及していきたいんです。でも、その方向に舵をきるとなかなかお金にはなりそうもないですけど。

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ダンサーという人種である以上、一般的に「儲からない」って言われる印象があると思うんですけど、私がかっこいいと思うダンスやダンサーと、テレビに出ているタレントに対してみんながかっこいいと思うものと、何が違うのかなと思うと、たぶん、広げる方法に対して無知なのかなと思うんですよね。だから、その方法を考えて、形にしようして動いていることは多いですね。そのためのチャレンジはずっと続けていきたいと思っています。

だから、先日由美ちゃんにも踊ってもらった某ブランドのPRイベントも、素敵なダンサーだからこそ形にできたことだと思うし。

黒木

あのお仕事に関しては、いわゆる、ダンサーとしてスキルがなければできない仕事だったので、本当に「こういう仕事がもっとあったらいいのになぁ!」と嬉しかったし、感動しましたね。

仕事内容や、起用されたメンバー、主催側からのダンサーに対する扱いを見ても、誰でもよかったのではなく、ちゃんと選んでいただいたんだろうなと感じました。「素敵なお仕事だなぁ」と感謝しています。

あとは、パートナリングという、私が絶対負けない!と思える分野でのお仕事だったことも嬉しかったですね。知らない人にパートナリングのおもしろさを広めることができたことも嬉しかったです。

こういう風に踊ると、相手とつながっているんだよ。見た目にはわからないけど、こう動かすと、女の子はこう動くんだよ。うまくいくと、こんなにも気持ちが良いんだよ。」と教えると男性ダンサーの子も「そうなんだ!おもしろい!」と興味津々で喜んでくれました。

JILでも、頼りきりになってしまって相手の助けがないと踊れないのは本当のパートナリングではないし、それじゃ駄目。ひとりひとり自分でしっかり立って踊れて当然、その上でのパートナリングじゃないと意味がない、と言っています。お互いの軸がしっかりしていないとパートナリングは成り立たないんです。ただ手をつないでいるだけじゃないんですよ!!!

パートナリングは、単純に1+1が2ではなく、パワーだったり、回れる早さだったりが、一人じゃ絶対に出せないところまで到達ですることができる。だからすごく楽しいんです。私が知る限り、1度パートナリングを知った人で、もうパートナリングは嫌いだから踊らないと言う人を聞いたことがないですね。

それだけ奥が深くて魅力があるし、相手が変われば、また違うものになる。その兼ね合いというか、絡みがすごくおもしろいんです!

だから、一人で踊れることにある程度満足した人でも、そこから先の発見がある。女の子はフォローする楽しさ、相手に身を任せることによって、自分が1じゃなくて5にも10にもなれる楽しさを知るし、男の子は自分の思った通りに女の子を動かせる楽しさを知ることができるんです。

黒木由美のインスピレーションの源。


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由美ちゃんの衣装だったり、描くものにセンスがあると思っているんですが、影響を受けたものとか、あるんですか?

黒木

黒木由美“自然”ですかね。自然の動物や虫の色合いだったり、空の色だったり。

あとは、『どこかで見たことのあるもの』にならないことを心がけています。何かのマネだと言われたくないところもあるんですけど、自分の中から出て来たものを、表現したいなという想いはとても強いですね。

だから、演劇とかダンスの舞台を観過ぎちゃうと、それが自分の潜在意識の中に残っていると感じるときがあって、アイデアを出したときに「いや、待てよ・・・これ、観たことがある。あ!あの衣装をちょっとパクっているかも!」って思うときもあります。

踊りを踊る者、舞台を創る者としては、まったく他を観ないわけにはいかないし、勉強をしなきゃいけないので、観た方がいいのはわかっているんですが、何でもかんでも、たくさん観ればいいのではなくて、「これは観たい!」と思えるものを選んで観た方がいいのかなと。

衣装やアイデアは映画や自然やファッション雑誌など、舞台からではないところからのもので創れば、被ることはほとんどないだろうと。

もちろん、同じ感覚を持ってる人が創れば、もしかしたら同じものを創ってるかもしれないけれど、それは意味が違って、まねたのではなく、お互いの感性が似ていたという話。それが似てる分には、逆に、私はその方と話が合うだろうし、感性が近いですねという話ができて、それはそれでいいと思っています。

どこからその感性が出て来たのかということが重要。自分から紡ぎだしたという自信があれば、OKというか。今まではそうやってきましたね。

なるべく、同じような表現の世界で観たことのないところから何か得られないかなと常に思っています。

電車に乗っているときや道を歩くときでも、目に入るすべてのことから「この色合いはありなんだな」「こんな形の衣装も素敵だな」などと感じられるようアンテナはいつも張っておきたいと思っています。そういうところからヒントを得るほうが、よりオリジナリティを持って創れるのかなって。

ラテンのフレーバーは、本当に日本中にあふれている。


黒木

でも、私が創る作品はベタなんですよ。そこが自分でも不思議なんですけど(笑)。

独創性のあるものを…と思ってるのに、結局はベタなものを創ってしまう。わかりやすいものしか創れない、と言うのもあるし(笑)。あとはコンセプトとしてわかりやすく創りたいというのもあります。

私自身が創るものとしては、本当に単純明快で、子供からおじいちゃんおばあちゃんまで、「何語か何かわからんけど、なんかいいもの観たなぁ。きれいな衣装だったなぁ。楽しかったなぁ。」そういう感覚で帰ってもらえたらマル!っていうイメージなんです。もちろん言うのと実際創るのとでは大違いで、そういうわかりやすいものこそ細かく計算され、創りこまれていないとチープな印象になるということもわかっていますので、より「完璧」を目指すということはいつも心に留めています。

わかりやすいという点でいえば、私がラテンを好きな理由もそこにあります。

ラテンって、失恋の歌でも、なぜか途中からウキウキしちゃうリズムになるものが多いんですよ。どんなラテンを聞いても、テンションが上がれるというか、あまり落ち込まない曲が多いんです。

私はスペイン語もしゃべれないし、歌詞もわからないんですけど、なんだかウキウキするな!というのが根底にあって、それでラテンの音楽が好きなんですよね。

割と、ラテンを遠くに感じてる日本人もいると思うんですけど、でも、よーく思い出してもらいたいのが、おそらく、ラテンだと認識せずに聞いているだけで、ニュースのオープニングやサッカーのコーナーのときにかかっている音楽や、CMでもラテンを使っている場合がすごく多いんです。

もともと日本人にラテンのリズムは合うと言われているし、私もそう思います。細かくジャンル分けするとどこまでをラテンと呼ぶか難しいですが、私が思うラテンのフレーバーは、本当に日本中にあふれていると思います。それだけ、日本人には馴染みがあるし、心地いいと感じているものが絶対あるはずなんです。だから、万人受けしなくてはいけないニュースやCMで使われるんだと思います。人が不快に思わない、何かウキウキする感じがあるからなんじゃないのかなと。

だから、ラテンの踊りを踊ること、ラテンのステップを踏むことも、そんなに日本人と遠い話ではないと思うんです。

「由美ちゃんが創ってくれるんだったら踊りたい。」


黒木

もともと私は、踊りが大好きで、踊りのジャンルを一本に絞り切れなくて、ヒップホップが踊りたくてニューヨークに行っていましたし、今でもヒップホップ大好きです。

だから、どっちつかずっていうか、「あ〜、器用貧乏って感じかな。とりあえず何でも、ちょこちょこやる人って感じだなぁ。このままどの踊りでも大成しないんだなぁ...」ってすごく残念な気持ちでいた時期があります。

でも、ひょんなことからJILをやらせていただくことになって、「あ、このために今までやってきたんだ」と、自分の中でつながって、ものすごくスッキリしました。

この作品はたくさんのジャンルを勉強してきた私でなければ創れない!!という自信みたいなものも器用貧乏だったがゆえに持てるようになりました。

それを、形作らせてくれるきっかけになったメンバーと出会えたことが、転機だったなと思います。

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どういう出会いだったんですか?

黒木

最初は、メンバーのLINAちゃんが、3〜4曲の曲を選んで、衣装も振付も、全部プロデュースするショーをすることになって、ダンサーが一人足りないんだけど出ない?と誘われたんです。

私はアメリカから日本に帰ってきたときで、浦島太郎状態だし、一緒に踊る友達をいちから作る気持ちでもなくて、あまり踊っていなかったので、「やってみようかな〜。」くらいの気持ちでやることにしたんです。

クラブで踊るときって、普通は曲を出し合ったりしてみんなで振りも衣装も考えますよね。でもそのとき、初めて一人が何から何までプロデュースするやり方でショーをすることもありなのかと知りました。でもまだ自分でやりたい感じではなくて。

そのネタの中で、たまたまラテン調の部分があり、「ここにラテンぽいパートがあったらかっこいいと思うから、由美ちゃんここだけ振付けてくれない?」ってLINAちゃんに言われたので、「いいよいいよ〜」とちょっとだけ振り入れをしました。

そのときに、みんなに身体の使い方とかもちょっとだけレクチャーしたんですが、みんな「おもしろいね。こういう風に動かすんだ〜!」っていう反応でした。

すると、みんなの方から「ラテンっておもしろいね。由美ちゃんが創ってくれるんだったら踊りたいんだけど、やらない?やったら?」って言ってくれたんです。「え〜!マジで!?いいの?やっちゃって!?でも、やるならガチでやるよ!」となって(笑)。

みんな踊れるのは知ってるけど、ラテンはいちからだから、練習もちゃんとしないとそれなりのものにならないから、ちゃんと練習しよう!ということになり、本番も決まっていないのに、週2日を4ヶ月リハをしました。それがJILの一番最初ですね。

多くのリハをするかわりに、妥協せずに、私のやりたいことを全部詰め込んでやるって決めて、それでできたのが、10分の鳥のナンバーです。衣装も妥協したくないから、超豪華にオーストリッチを使い、スワロフスキーも貼りまくりました。

労力は惜しまないと決めたので、衣装も全部私が創りました。それでお金は頂くことはしない。材料費だけいただき、5人分の衣装を全部縫い、踊りもすべてプロデュースして、それをみんなも必死に踊ろうとしてくれて、それででき上がったのがあの鳥のナンバーだったんです。


自主公演なんて私には無理無理!


黒木

実は、私の中で、あの鳥のナンバーに精魂すべてを注いだから、これをやって私のダンス人生を終わらせようと思っていました。

普段、2〜3回のリハとかでショーに出られるくらい瞬発力のあるメンバーが4ヶ月かけて創るんですよ。それは相当すごいことだったと思うんです。だから、「もう私は満足…自分のダンス人生、幕引きの作品だ。」と気合いをいれまくって創ったんです。

今のマネージャーをやってくださってる田村さんのイベントに出させていただくことになって、鳥のナンバーを観た彼が「今まで観たことのないスタイルでやっていてとてもおもしろいので、ぜひ自主公演をしたらどうですか?」という話をしてくれたんです。

ただ、私もそのときは辞めるつもりだったし、1曲しか作品がないのに、自主公演って何曲創んなきゃいけないんですか?って感じで(笑)。だから、自主公演なんて私には無理無理!と言い続けてたんです。

けど、田村さんは、半年や1年に1回しか私と会わないのに、4年間ずっと会う度に「やらないんですか?」と言い続けてくださったんです。

「この人、変わった人だなぁ。こんなに無理、やれないって言っているのにまだ言うんだ〜。」と思っていました(笑)。

そんな時期に、メンバーとミーティングで次は何をしようかと話していて、「いや〜、由美ちゃんさぁ、1回1回こだわって衣装も作ってくれて振りも創ってくれて、素敵なことだと思うよ?けどさ、1回1回のイベントに出させていただくことで毎回終わっていくんじゃさ、未来が見えないよね。」と。

「何言ってるの、この子たち?」と、私は意味がわからなくて、「え、何が?他に何かやれることあるの?」って感じだったんです。「いや、公演にしていくとかさ、そういう目標を持って創っていった方がいいんじゃないか。」…と。私は大爆笑して「いや、無理無理!」と (笑)。

やるとしたら大仕事だし、公演になるなら出演ダンサーも必要だけど、私は集めて来られないし、集客だって当てがない。だから、「やだやだ!絶対やらない!」と言い続けていたんです。

でも、1週間経って、冷静になって考えて、「じゃ、次に実際これをやりたいってことがあるか?」と言われたら、自分の中で明確ではなかったんです。毎回ひとつのナンバーに対しては明確でも、こういう風に広げていきたいというものはまったくなくて・・・。

それに、こうしてメンバーが私に言ってくれているということは、どういうことなのかと考えたときに、「由美ちゃんならできるよ。由美ちゃんが創るものはおもしろいから、私たちが踊ってあげるからやってみなよ。」と言ってもらえることはすごくありがたいことだし、なかなか自分の頭の中にあるものを、実際に人が動いてくれて形にしてくれることはすごいことなんじゃないかなと。

できるかできないかは、やってみてからじゃないとわからないことなのだから、1回頑張ってやってみて、自分にはその能力はないと思えば、次からはもうできないと言えばいいんじゃないかと思って、1回やってみようかなと。それが形になったのが前回の公演だったんです。

だから、本当に変わった始まり方というか・・・。公演を主宰する方は普通「こういうことをやりたい!」っていうビジョンが最初から明確にある方が多いと思うんですけど、どちらかと言うと私は、「みんなが求めてくれるなら応えたい」みたいな(笑)。

当然、年月も経って今はそういうモチベーションでは運営していけないぐらいの規模ですし、自分の中の気持ちの変化、環境の変化は劇的で、今は当時とはまったく違う気持ちですね。とにかく最初のメンバーがいなければ、このJILは存在していなかったので、本当に感謝しています。

「由美ちゃんは踊りを創ればいいんだよ!由美ちゃんの頭の中はいつも訳がわからなくて、それがおもしろいと思うよ!」と、言われたのが忘れられません(笑)。

AKIKOさんにも観ていただいたことのある、華のナンバーについても、最初にみんなに衣装の構想を話したとき、全然意味がわからなかったみたいで、「あのね、大きいスカートがあってね、そこに穴があいてるわけよ。人が履いているんだけど、繋がっててね!」って一生懸命説明したんですが、みんなポカーンとしてたんです。(笑)。

それで、私が自分の部屋であの直径6mのスカートをちくちく縫いました。縫い上がってそれを持って現れたときに、やっとみんなの中にイメージが沸いたみたいです(笑)。

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華のナンバー、素敵だったな〜。ちなみにあれはどうやって履いているんですか?

黒木由美 〜 Nature does nothing in vain. 〜


黒木

本当にスカートを履くように履けるんです。ひとつずつのベルト芯があって、ホックがあって、スナップで止められるんです。それが5個の穴についているんです。だから、本当にスカートがつながっているだけなんです。

そして、当然あのスカートは見本があるものじゃないので、頭の中で計算して、布を切って、どの角度でどう切ったら、どの部分がこっちに持ってこれるかな...と、もう工作ですよね(笑)。

ありがたいことに、公演が終わってからも、あの華のナンバーはいろんなところで踊らせてもらえる機会があって、「JILと言えばあのスカートだよね!」とアンケートに書いてくださっているお客様もいらっしゃって、観たことのないものだったんだなと嬉しく思いました。

「あ、このカンパニー本気だな。」と思っていただけるものを出したい。


黒木

きちんと練習しないとできないものを出していきたいというのがコンセプトにあるんですね。あのスカートも、ちゃんと履いて、スカート捌きも死ぬ程やらなければきれいに見えないんですよ。急に履いて2〜3日のリハでうまくできるかと言えば、そうではなくて、当時のメンバーも公演のリハ以外にスタジオで何回も練習をしていました。

お客様には「練習したんだろうなぁ」と観ている間は感じさせることなく、もっとその先の夢の世界に連れていかなくてはいけない。でも、練習をしていなければこうは見えないっていうところまで、到達したものを、JILで出すものすべてに対して徹底したい。

もちろん、「きれいだなぁ」だけを感じていただいてもいいのですが、わかる人にはわかると思うので。「あ、このカンパニーいつも本気だな。」と思っていただけるものをいつでも出したいと思っています。そうじゃなかったら週に3回、コンスタントにスタジオを借りてカンパニーとして練習している意味がないと思うんですよ。

もちろん、今回の公演にはメンバーの瞬発力が必要な部分もたくさんいれています。お客様にはその緩急を楽しんでもらいたい。すごく計算された完璧な部分と、メンバーの得意分野とするフリーなストリートダンス感もやっぱり入っていなければ、このメンバーでやっている意味がないと思うんです。

もし、計算されたものだけを創りたいんだったら、そういうことが得意な人たちとだけやればいい。だけど、それだけでは、私の創りたいものにはならない。すごく踊りが上手でも、最初から最後までフルアウトでやりきられたら、やっぱり観ていても苦しいことがあると私自身は思っていて、フルアウトする中で、いかに美しく抜くことができるか、決めるところは本当に決めることができて、抜くことができる、そういう緩急をつけることができてはじめて、私の理想とする一流のプロのダンサーだなと思っています。

だから今のメンバーなんです。メインメンバーはみんな、今までのダンスのプロとしてのキャリアの中で、フリーでかっこ良く踊れる抜きの部分をちゃんと学んできている人たちで、今はJILで計算された部分を一生懸命吸収してもらっています。その両方ができたら最強、どんな仕事がきてもできるって思うんです。そういうカンパニーを目指したいなと最初から思っています。

練習は大嫌い。でも・・・


黒木

でも、私自身、練習は大嫌いなんです。辛いこと、苦しいこと、地味なこととか、しなくていいんだったらひとつもしたくない(笑)。だけど、その嫌なことをしたくない気持ちよりも、本番当日、納得いく踊りを踊れていない自分を見るのが嫌だから練習するんですよね。私が練習は嫌いってメンバーに言うと「こんなに練習させといてよく言うわ!」って笑うんですけどね(笑)。

実際、この歳にもなってガッチリ踊ってる自分がいるなんて、想像していませんでした。どうダンス人生を終わらせるかを考えてもおかしくない時期に、なんでこんなに私、踊ってるんだろう、みたいな(笑)。ありがたいことにカンパニーが育ってきているので、体力的に少し無理してでも知りうるすべてのことを、メンバーに伝えたいですね。

自分がパフォーマンスをするのはだんだん難しくなって来ても、見本を一瞬見せられるくらいのスキルと体力をなんとか維持しないといけないなと思っています。

TDM

そうですね。私も一生ダンスは辞められないでしょうね。常にいい音は探しちゃいますしね。

黒木

そうそう。私もいつもいい音楽と巡り会いたいと思ってます。いい曲と出会ったときじゃないと、振付も創れないのですよね。常にいい曲はストックしているし、CD屋に行ったから出会えるものでもなくて、カフェとか洋服屋さんとか、いい曲がかかっていると、必ず店員さんに聞きます。「これ有線ですか?何チャンですか?何時何分ですか?」って聞いて紙に書いてもらいます(笑)。しょっちゅうですね。そのくらい、いい曲との出会いを求めてます。

TDM

ダンスはこれからいろんなところで活躍できるところが増えていくのかなっていう気がしますね。

黒木

ダンサーももちろん頑張らないといけないんですけど、お客様がデートで「ダンス観に行こうぜ!」となる文化が日本にも来てもらえたらいいなって思います。

「シンガーだったらこの子で、ダンサーだったら彼が好き!」って日本国民みんなが言えるくらい、ダンスというものが浸透して、敷居の高いものではなくなっていけば、ダンスができる場所もたくさんできて、ダンサーが活躍する場もいっぱいできる。そうすれば、ダンサーも切磋琢磨して、レベルが上がっていく…良いことずくめです。だから、ダンサーは「また観に来たい」と思ってもらえるものを毎回死ぬ気で創らなくちゃいけないなって。


TDM

そうですね、そのサイクルは素敵です。今は由美ちゃんがそれを一つ一つ、人に押されながらやっているんですね。

ダンスがうまくなりたいです。


TDM

由美ちゃんの野望って何ですか?

黒木

あ、野望はですね、ひとつあって、単純にダンスがうまくなりたいです(笑)。小学生みたいな答えで申し訳ないんですけど。

TDM

(笑)。でも、由美ちゃんらしい。

黒木

たぶん私は、こんなすごい仕事をやったんだ!と誇るより、このときにこんなにいい踊りを踊ったんだ!と自分自身が感じられる瞬間を求めているんですね。今までのうん十年のダンス人生の中で、いわゆる“会心のデキ”というのは本当に厳密に言うとまだない・・・かも。そこにたどり着きたいんです。

いい仕事をやった感覚ももちろん感じつつ、どれだけ自分の踊りに満足できたのか、その瞬間をどれだけ増やせるか。究極的に言うと、たぶんエンドレスだとは思うんですけど。

だから、私はメンバーにとっても鬼コーチだと思います。ストリートをずっとやってきたメンバーに、「ヒール履いて、つま先をのばせ!」って言ってますから(笑)。でも、それはやってできないことではないと思うんです。あとは、やるかやらないかだと。

「自分でビデオ撮って観てごらん?つま先が伸びてるのと伸びてないのとどちらが美しいですか?」もう、それは単純な話で辛いとか辛くないとかは関係なく、ヒールを履いて踊る以上メンバーには苦しみながらそのスキルを身につけてもらうしかないと思っています。

お客様として5000〜6000円という、けして安くはない金額で私たちはショーをやらせてもらう。あなたが5000〜6000円かけてダンスを観に行ったとして、納得いくショーなのかを考えてほしい、プロとしてのイメージをしっかり持ってほしいと、研究生の若いメンバーにはよく話をします。

もともとストリートダンサーであるということは観にいらっしゃるお客様には関係のないこと。もちろんメンバー個人の良さや、ストリート感を出してもらいたいパートもたくさんあります。そこでは、うるさいこと何も言わないから思いっきりやってほしいと思っているんです。でも、きちんとスキルを身につけなくてはいけないところでは、死に物狂いで取り組まないと、そう簡単には習得できないと思っています。

ですので、すごく無茶なオファーも多々あるんですがJILはそういう場所だとメンバーには理解してもらっています。つま先がのばせて、きれいな身体のラインで、きれいにラテンが踊れるようになった自分を想像したときに、それが自分の目指すものではなく、やりたくないのだったら、楽しくもないだろうしJILにいちゃいけないと思うんです。私としてはやりたくないことをやらせる気はまったくないので。そんなモチベーションでは絶対上達なんてしませんから。

JILは激しく身体を出す衣装も着ます。でも、そういう衣装を着たいから着るというのは無責任だと思っていて、着るからには、着て、お客さんに不愉快な想いをさせないだけのスキルがなければ、そういう衣装は着てはいけないと思っているんです。はっきり言って着てはいけないレベルというのがあると思います。

それを私がずっと公言しているのに、メンバーの足が美しくなければ、私としてはとっても困るんです。「あなたの足のために衣装を変えなくてはいけないの?私はこのイメージのこの衣装でやりたい。だからこの衣装を着られるスキルを身につけてください。この衣装で出してもいい足になってください」、とヒップホップダンサーに言い続けてます(笑)。最初は困惑していたメンバーも今では、美しい足の運びを習得しようと一生懸命リハに励んでくれています。

よくみんな練習ビデオを撮るんですが、私の「つまさきのばせーーーーー」という怒号がしょっちゅう録音されていてすさまじい空気感です(笑)。

黒木由美 〜 Nature does nothing in vain. 〜

隙を与えない、卓越した踊りの技術。


黒木

JILの衣装に対して肌を出し過ぎているという意見もチラホラ伺うこともあるんですが、私としては悔しいんです。そう思わせたということは、衣装のいやらしさに目がいくくらい、踊りに隙があったということ。

例えば、新体操とか、シンクロナイズドスイミングなんかは、私たちのダンスとは比べ物にならない身体のラインを出している衣装だし、レオタードで股を開いたり、ハレンチだと言われてもおかしくはないような動きを実際はしている。

なのに、誰もそう言わない。なぜか。それは、すごい技術があるから。そう言わせない、そういうところに目もいかない、いやらしい目線で見る間も与えないくらいの鍛錬、訓練された、人間とは思えない、卓越した技術が。

JILもダンスなので、美しくありたいとか、可愛くありたい、エレガントでありたいという意味で衣装をつけるし、露出しますが、いやらしく見えてしまうのは、私の踊りがまだまだなんだなと。露出し過ぎと言う意見が出てしまうということは、結局スキルが足りていないということに他ならないと思います。

「やっぱりJILの動きだったらこの衣装だよね。ここまで体のラインが出しているのが一番きれいで、JILの振付が生きて、一番マッチしているよね」って思っていただけるくらいのところまで成長していきたいなと。そこまで、みんなのスキルを持っていきたいですね。そこは、すごく課題です。

実はセクシーなイメージで衣装を創ることはあまりないんです。肌は出しているけれども、いたって私にとってはヘルシーなイメージなので(笑)。だって、めちゃくちゃアスリートのように練習しますから。

もちろん「ここは男の人を翻弄するようなイメージで」っていう部分もありますけれども、それでも、つま先は伸びてるとか、足は開いてるけど、その足の付け根の数センチへの意識をみんなが持っているとか。マニアックですが、そういう意識が見た目にすごく影響します。


TDM

うん、そうですね。いや〜、これからが楽しみです!

黒木

はい、びっくりしたのが、今回の公演から若手のメンバーがたくさん入ってくれたんです。やっぱり、ラテンは大人の踊りというイメージが強いので、日本では若い子は来てくれないのかなぁと思ってたんですが、下は19〜20歳から30代まで幅広くいるので、今度の公演もおもしろいと思います。あとは、求むメンズ!(笑)。

TDM

(笑)。今度の公演を楽しみにしてますね。今日はありがとうございました!
'12/10/31 UPDATE
interview & photo by AKIKO
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