TDM - トウキョウダンスマガジン

飯塚浩一郎 / EBATO / 辻川幸一郎
〜 CMというフレームからダンスを表現する。 〜

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最初から本気でした。でも、本気じゃないと言えば本気じゃない・・・
あいまいです (笑)

浩一郎

辻川さんはLL BLOTHERSの同級生なんですよ。

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エー!?そうなんですか?

辻川

ハイ、弟のMasaya君とは小学校からの親友です。一緒に映画『ブレイクダンス』を観に行ったり、彼にマイケル・ジャクソンのスリラーのビデオを貸したのも僕ですし・・・いわゆる、彼らに影響を受けたみんなは僕の子供みたいなものですね (笑) 。

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(笑) 。では、まず、今の職業に携わるようになったきっかけから教えてください。

辻川

辻川幸一郎CORNELIUS(コーネリアス)という日本のバンドが昔からの友達で、あるときライブ中にバックで映像を流したいということで、その映像制作を頼まれて作ったのがきっかけでした。

それまで映像は好きでしたけど、作ったことはありませんでした。ただ、なんとなく自分にもできそうかなと思ったので (笑) 。基本的には友達に頼まれたからというノリに近い感じで作りました。

その次のアルバムのときに映像を作らせてもらった時には、最初よりは上手くなり、その次のアルバムのときにもその前よりも上手くなっていきました。コーネリアスと一緒に自分も進化していきました。

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では、最初から映像監督としての自分のビジョンがあったというよりは、自然にそういう過程を経る流れがあったんですね。

辻川

まず、音をもらって、「いつまでにこの曲のバックに流す映像がほしい」と言われて、締切ありきでやっていく作業なので、友達とはいえ、最初から今に至るまですべて仕事という感覚です。

最初の締切が、言われた2週間後でした。それまで、フリーでレコードジャケットのデザインとかをしていただけだったので、Macの使い方もわかるし、これなら映像もできるだろうと思いました。映像編集をやるためのソフトを入れたりとかしなくちゃいけなかったので、秋葉原に行き、映像に詳しいと言われるお店をたらい回しにされて、辿り着いたお店の人にいろいろ聞いて取り付けました。

しかし、編集ソフトの使い方がわからなかったので、“2週間で覚える使い方”みたいな本を買い、でも、2週間で覚えたんじゃ間に合わないので、それを4日間くらいで読んで無理やり覚え、あとはソフトを買った秋葉原のお店の人に電話しまくって、なんとかできたって感じでした。

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大変だったんですね〜。

辻川

いや、何やっても楽しかったですね。そういう知識を習得しているという感覚さえもなく、ただ無我夢中でした。自分は就職していたわけではなく、仕事はそれしかなかったので、とにかく最初から本気でした。でも、ま、本気じゃないといえば本気じゃないかな・・・あいまいです (笑) 。

浩一郎

監督の過去の作品を観ると、斬新で、前例がないんです。映像へのアプローチが自由で自然というか。学んでいない分、全部自分。この監督好きとか、このCM好きとか、無いんだろうなって思います (笑) 。

辻川

うん、ないですね (笑) 。いわゆる土台というか基礎がないからだと思います。CMっていうものはものすごく面白いと思ってます。15秒や30秒間にいろいろなことを詰め込まなければいけない形式が面白い。ただ、CM以外の分野もものすごく興味があるから、そのバランスで作っていますね。

できるだけ柔軟に、自然に取り組んでいます。


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映像における自分らしさというか、こだわっている点はありますか?

辻川

その都度、たくさんあって、基本的には決めてかからないことが大事かなと思います。できるだけ、柔軟に、自然に取り組んでいます。

今回の日産「ROOX」に関わらずCMは本当に毎回状況が変わるので、いかに要望を受け流してまとめあげられるか、だと思います。

今回で言えば、車はいろいろと制約も多いし、何かひとつのことを押し通すのではなくて、クライアントの意見にうまく対応して、形を整えていくというやり方で、いろんな意見をまとめあげるという作業に近かったです。

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その中でもクリエイティブの面でこだわったところは?

辻川

辻川幸一郎最初からウサギを使ってほしいと言われていたので、そこからウサギの役割を話し合っていくうちに、どんどん当初のものから姿かたちは変わっていきました。

だからと言って、パニックを起こしたり、「自分のものにならない!」と思うのではなくて、「なるほど、なるほど」と思いながら、うまく綺麗に自分の中の合点できるところに着陸させていきました。

ダンスのイメージは飯塚さんからビデオで見せられていたんですけど、数人の振付師さんのダンスから選考しようとしたときに見つからなかった。そのとき、飯塚さんがダンスをしているなら飯塚さんがダンスディレクションをやったらいいよと提案しました。

僕は結構現場でそういう作り方をします。今この場にあるものを見て、それで何ができるかをすくいあげていく。無理やりいびつなことにはしないで、いま何が一番この場でできる面白いことだろう、と考えます。

今回で言えば、結局飯塚さん本人がダンスをできることってすごく面白い。そういう人って滅多にいない。少なくとも、僕が今まで出会った人で、コピーライターでダンスディレクションができる人は一人もいなかった (笑) 。そんな面白いことができるなら、飯塚さんがやったらいいよと言ったら、飯塚さんがやりやすいということでEBATOさんを呼んできて、今回の形になりました。

振付は撮影当日についた感じで、こちらとしても、たぶん現場でいろいろ内容は変わるだろうと予想していたので、その覚悟で臨みました。なので、現場で振付を見てこちらも「ここはこうしましょう」と話していきました。飯塚さんや、EBATOさん、ダンサーの子たちが、何が得意なんだろうということを観ながら一番いいものを拾っていった感じです。

そこで僕が“もっとこうしてくれ、ああしてくれ”って言うと、誰も動けなくなる。逆に皆が何ができるのかを把握して、その中で最低限、フレームの中での立ち位置など、自分の意見は伝えて、あとは自由にやってもらう。演出というよりは彼らがうまく力を発揮できる場をうまく作る作業ですね。

人間の頭で考える“完璧”って大したことなかったりするからね。


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今回我々が浩一郎君にフォーカスしたのも、社会で一流の仕事をしていて、なおかつ、ダンスのことをわかりやすく、まっすぐ世の中に伝えていく気持ちを持っている・・・しかも、それが押し付けではなく、ダンスを面白い、必要だと思われるように見せていくことに時間をかけてやっていることに共感し、応援したいと思ったからなんです。広告の仕事はもう長いよね?

浩一郎

もう8年たちますね。ダンスを本格的に入れられたのは今回が初めてです。

辻川

辻川幸一郎へ〜、そんなに経つんだ。もっとやったほうがいいと思うな。僕は組織に所属したことがない立場として、組織的な理由でうまくいかないのってつまらないと思うし、個人の感覚が出せる環境をできるだけ探ってます。

ただ、CMの場合特に感じますが、個人的感情に固執している人が、一年かけて作ったものが面白いかといえば、そうでもなかったりもします。

CMって、そういう自分の枠を超えた無意識とか理不尽なことだらけ。でも、その中で作ったものは変な意味で面白かったりするときもあって、そういうところが否応なく出てしまう部分って絶対ある。それが個性なんだなと気付かされることが多いです。

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奇跡的なものですよね。

辻川

奇跡というとカッコいいですが、変てこなズレですね。なんかわからないけど、ちょっとズレちゃったっていうことが結構起きます。でも、そういう感覚ってすごく楽しいものなんです。

浩一郎

そのズレって、広告を作っていく過程でも、世の中に出てからも在りますね。そこを楽しめる人のほうが、たぶんこの仕事は楽しめるんだなと思います。思ったものを作るというより、その場で起きたことをうまく乗りこなしていく作業ですね。

辻川

でも、乗りこなせているつもりでも、乗りこなせないことの方がほとんどなんだよね (笑) 。ただ、その失敗に良さが出たりもするから、逆説的なところに良さがあったりするんだよね。人間の頭で考える“完璧”って大したことなかったりするからね。

逆に言うと、最初に振付師の方が決まらなかったときに「あーもうダメだ・・・」と思うんじゃなくて、「じゃ、飯塚さんにお願いしてもっと自由にやってみよう!」となったら、良くなった。問題を解決するたびに意外によくなったりするんですよね。

浩一郎

会議室で踊ってみせましたからね・・・ (笑) 。

辻川

でもそういう風に、身軽に柔軟に対応できるというのは、飯塚さん個人の対応力が高いから。踊りもできてプランナーもできる存在なんてすごく面白いと思う。何か言われても考え込まずに、「じゃ、こうしましょう」とすぐに言える反射神経のある仕事の仕方って、モノを作る上ですごく面白くなっていく要素だと思います。だから、飯塚さんは素敵な存在ですね。

8年かぁ...。8年もその才能を眠らせ続けていたのはもったいない気がするけど (笑) 。

浩一郎

いやいや (笑) 。ダンスは別でやっていましたし、広告の中でダンスを形にするのが難しかったんですね。時代の流れが、いわゆるお遊戯ダンス的なものが全盛で、なかなかそこで、ダンスにこだわって何か作ることが難しかったんです。ですが、やっと今回形になって、そういう時代が来たのかなと思います。

辻川

辻川幸一郎ある時、MAIKAちゃんとRIKAちゃんの身長が、大きすぎるかもしれないという話になって、最初は僕も大丈夫かな?と心配したんですが、飯塚さんが「いや、絶対この子たちなら絶対に良くなるので大丈夫です!」と言って、それまで僕は違う子でイメージしていたんだけど、それから方向性を全部あの二人に変えた瞬間がありました。

そこって、監督としてはこだわりどころだったりするかもしれないんだけど、僕の場合は踊りをやっている人がそう言うんだったら、そうなんだろうなと思った。飯塚さんとEBATOさんも盛り上がってくれたから、信じれました。

不確定要素の多い中で、自分のスタンスで生きる。

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今後の目標や将来のビジョンはありますか?

辻川

やりたいことはいろいろあるんですが、CM以外だと映画や写真、立体作品も創りたいですね。かと言って、CMを辞めてそっちだけやりたいということもなく、いろいろと同時進行で描いています。

自分は「これをやりたい!」という意識よりも、好奇心の方が大きく、常に何をやってても楽しいです。

浩一郎

今の時代、不確定要素の多い中で、そういうスタンスでちゃんと生きていけることはすごいと思います。

辻川

僕としては会社に入れなかったという状況がまずあったから、すごいと思われるような感覚よりも、とにかく自分はラッキーだなって思いますね。何をやってもうまくいかない状況から、何をやっても楽しまないといけない。そうせざるを得なくなったというか。

浩一郎

監督の場合、周りからお仕事の話がやってきますよね。自分で仕事を作るのではなく、誰かに依頼される、監督のことを誰かが思い出す、それって素晴らしいと思います。その存在でいられることがすごいです。

辻川

自分は恵まれているとは思います。飯塚さんもそういうタイプだと思います。他にはないものがあるし、自分らしい振付とか自分らしさってあるでしょ?それが仕事の過程で色んな条件にさらされて、どんどんろ過されていったとしても、残せるタイプ。

ろ過しただけで全部なくなっちゃう人もいる。それは、逆に「自分はこうじゃなきゃいけない!」って人は、自分の無意識ってところを認識できていなくて、自分の意識のことにしか興味がなくて、すごく狭い感覚。

浩一郎

人生の歩み方は違いますが、モノを創るときの感覚は結構似てるかもしれないです。

僕も、自分の意識の外側から来るものに何か面白いことがあるんだろうなって好奇心があるし、これを創り上げたいんだ!と思うときがありつつも、その瞬間瞬間で楽しいことを選べればいいかなって思います。

本当に今回は辻川さんが監督じゃなかったら実現しなかったですね。

辻川

飯塚さんも周囲にいろいろ呼ばれてるんだと思うよ。そういう小さくてもいろんなことが、数年かけて思いもがけないことになったりするからね。

辻川幸一郎逆にあの場で飯塚さんの存在に気付けない感性は、ディレクターとしてダメだと思うんです。あの場で気付けて、それを面白がれないのはすごくつまらない。自分は、そういうゆるさや自然の流れに任せるノリのタイプなんで。

どんどん踊れる視点でもやっていった方がいいんじゃない?それでいつか同じやり方に飽きるかもしれないけど (笑) 。

浩一郎

そうですね (笑) 。それまで、ダンスというものを、軽いわけではないんですけど、もっと流動的に動かしてもいいものとして、捉えていけたらいいですね。

辻川

どんなに流動的にふわふわやってても、どんなろ過装置が働いても絶対に良さは残るから。そこに焦点を合わせていくほうがいい予感がするよ。

TDM

では、最後に読者に何かメッセージがあればお願いします。

辻川

メッセージなんて言えませんが、ただ、僕は踊りをやっている人をものすごく尊敬します。自分の身体に興味を持っている・・・それだけで、大尊敬して、感動して、圧倒されます。本当に素敵だと思います。それだけを伝えてほしい。

TDM

素敵な気持ちをありがとうございました。
'10/01/09 UPDATE
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