TDM - トウキョウダンスマガジン

男子新体操 〜 ハジケル若き表現者たち。 〜
男子新体操 〜 ハジケル若き表現者たち。 〜

男子新体操のもつエンターテイメント性に魅力を感じ、ダンスエンターテイメントに興味を持っている監督がいらっしゃるということで、知人に紹介して頂いたのが、スポーツ界の名門、青森山田高校・男子新体操部の荒川栄監督だった。

荒川監督は、男子新体操を経験した選手が、各大会で実績を残すこと、また選手の育成と共に、様々なプロの現場で卒業した選手が活躍できる現場を開拓することに精力的に取り組んでいる。2年連続でカルピスのCMに起用されている男子新体操の選手たちも、森山田高校のOBを中心とする青森大学の現役選手である。

今年1月のWORLD WIDEにて麿我によるDirected Numberでは男子新体操とダンスを使ったステージが完成。見事、新体操×ストリートダンスの融合が実現した。

これをキッカケにダンスエンターテイメントの幅は確実に広がった。ダンスと競技、活動する現場は違うけれど、新しいものを作っていく作業は現在のストリートダンスシーンとよく似ている。そんな両者が相乗できることでダンサーでありアスリートである人材が活躍していける現場を作るために…この特集が組まれた。

今回TDMでは監督のインタビューと共に、男子新体操が起用された「カルピスソーダ」の新CM撮影現場に潜入。彼らの起用について(株)博報堂コピーライター石井氏、アートディレクターの小松氏、そして将来ダンスの道も考えている青森大学の大舌恭平選手の言葉も合わせて、とくとご覧あれ。

※荒川監督へのインタビューは2009年1月、WORLD WIDE出演後会場にて収録したものです。


青森山田高等学校 男子新体操部青森山田高等学校 男子新体操部

昭和42年に体操の同好会からスタート。活動していくうちに器械体操男女、新体操男女4種別の総合体操部に拡大し現在50名で活動している新体操部。男子新体操は昭和57年に尾坂雄右監督(現総監督)の就任とともに設けられ、以来25年間にわたる努力を積み重ねた結果、全国高校総体9回、全国選抜大会10回、国民体育大会3回、合計22回の全国優勝という実績を上げ、新体操界でその名を轟かせる名門校である。

その基本理念は、あくまでも部活動にかける純粋な心を持ち続け、常に感謝の気持ちを忘れず、耐えて練り上げる心の成長を追及するという、荒川監督の指導方針の上に成立。実績や伝統を構築するために多大な努力や苦労を払うことはもとより、そのひとつひとつには、汗と涙と感動の場面が数多く染み、貴重な財産となって心の中に蓄積されている。



荒川栄(青森山田高等学校 男子新体操部監督)荒川栄

青森山田高等学校 男子新体操部監督。新体操競技に対する、熱い情熱と強い熱意で子どもたちからの信頼も厚く、常に頂点を目指し、体操人とし人間教育も同時に指導するバイタリティーに富んだ先生である。日ごろから「心はそのまま技術につながる」と重圧を気迫に変える指導に精を出している。

青森県八戸市出身。白銀中学の時に新体操と出会い、青森山田高校に進学。青森山田高3年時に主将として全国高校選抜、インターハイ、国体の全国大会3冠を達成。その後、国士舘大へ進学し2年生から全日本学生選手権個人総合で前人未到の3連覇を達成する。1995年 国士舘大を卒業後、岩手県高体連に請われ、岩手県の女子高の非常勤講師になると同時に中学校の体操部でコーチを務める。その後96年に新体操部が新設された盛岡市立高に赴任。以来6年間で2度のインターハイ団体3位、全国高校選抜準優勝、2003全国選抜団体優勝と全国トップレベルに。2003年4月に母校青森山田高校新体操部監督に就任し2009年現在8年目。その間6度の全国優勝を果たし、現在の男子新体操界を牽引する。
〜デーリー東北新聞社掲載記事引用〜


◆「カルピスソーダ学園」公式サイト
全身タイツの彼らが帰ってきた!ムービーで新体操の妙技も必見!!
http://calpissoda.jp/top.html


「カルピスソーダ」新CM撮影現場レポート&インタビューはこちら。


男子新体操 〜 ハジケル若き表現者たち。 〜

子どもたちの将来の可能性をひとつ広げられた。

TDM

荒川監督まず、WORLD WIDEのご出演、ありがとうございました。昔、私も体操の世界にいたので、ずっとダンスとの融合を実現したいと思っていました。名門校の新体操部の監督となると、さぞ厳しくてまじめな方だろうと思っていたら・・・思ったよりも理解のある、アッパーな方でホッとしました(笑) 。実際、やる前とやってみての感想はいかがでしたか?

荒川

新体操の動きは独特で、ラジオ体操のような基本的な動きだったりするんです。その部分がダンスと融合できないのではないかと思っていたので、ダンサーさんに迷惑をかけないかと心配していました。が、幸い、3年前から部で直美コーチがジャズダンスの基礎を教えていたこともあり、去年の全国大会で入賞した演技の中にも、その要素が少なからず入っていたので、その部分で、もしかしたら我々ならできるかもしれないと思っていただいたんだと思っています。

だから、出会ったのが今でよかったなと。これが、もし2年前とかであれば、「ごめんなさい」となっていたかもわかりませんから。または、麿我君からの注文に、素直に「うん」と言えなかったかもしれません。その意味で、今回のお話はベストタイミングでした。それに、我々として技術的にこうなったらいいなぁと思い描いたとおりの踊りでした。

WORLD WIDEのステージに立った選手たちからのコメント


 
 
荒川監督「新体操はずっと勝つためにやってきたんですが、ダンスの場合は、みんなで楽しむ。もちろん、集中しなくちゃいけないんですけど、その楽しむっていう感覚を、新体操でも活かしていきたいなと思いました。」

「採点とかを気にせず、自分の内側を出せるというか、勝敗とかじゃなくって、みんなでひとつの演技を楽しくやれて、良かったです。」

荒川

ダンスと競技とでは同じ達成感でも、その種類が違うんでしょうね。変な話、ダンスはたとえミスしても、考え方によってはそれを良しとできる。もちろんそれじゃダメなんですけどね。

逆に、競技者ではない舞台の緊張感があった。本番前の意識の高め方、アドレナリンの出方もいつもと違ったと思います。競技前は笑っちゃいけない雰囲気ですからね。今回を機に、次からの競技前の意識も変わってくるんじゃないかなと思います。

TDM

今回を機に、何かやりたいこと、描けたことはありますか?

荒川

本人たちはわかりませんが、私は、いずれ進路を決めて散っていく子どもたちのためにも、新体操のプロで生きていける、そういう新体操でありたいという想いを前々から持っています。

自分も10年間新体操をやって、大学が終わった瞬間に、そういう伝手もなく、まったく自分がゼロになったんです。かといって、意を決して違う世界に飛び出す勇気もなかった。新体操とかかわるには、学校の先生しかなかったんです。

なので、16〜18歳からこういった経験があって、選択肢のひとつになっていれば、きっと私も踊っていたんじゃないかなと思います。

TDM

だから、生徒のために、新体操が好きな感覚を持続できる環境を作り上げる動きをしていらっしゃるんですね。

荒川

荒川監督はい、今この36歳の気持ちで16歳だったら、どんどんやってると思いますけどね。ということは、彼らも今選べないのは同じなのかなと。だったら、我々がいろんな経験をさせてあげるのが役目かなと思います。選ぶのは彼らですから。

もちろん、家庭のために他の仕事を選ぶのもいいでしょう。でも、1人でも2人でも、体操のプロとして社会に出してあげることができれば、逆にそれは新体操の世界のためにもなります。

正直、新体操はかなり狭い業界だし、優勝しても我々を紹介してくれる雑誌もないし、競技のあと、こんな風に話を聞いてくれる瞬間もなかった。それくらい、メディアっていうのは、恐ろしく冷たい。なので、こういう機会によって、違う世界の人たちが「あれ、ナニ?新体操って。」って見てくれる瞬間があるんですよね。

そういう意味で、WORLD WIDEでの経験は子どもたちの将来の可能性をひとつ広げられたのかなぁと思います。

いろんなダンスを観させていただきましたが、自分は本当に麿我君に創ってもらった作品のような雰囲気を描いていたので、それが形になってよかったです。こちらも、単なるダンス演技に体操を入れるのではなく、“プロに通用する人材を作りたい”というワンランク上の考え方に共感しました。そのためには、1〜2年では無理で、3〜5年ほどかけていけば、終わった頃には自然にそういう世界に向かう人材になれるんじゃないかなと。

ただ、それを表現する場所が僕の力だけでは用意してやれない。青森なので、駅前でやったって、人は寒いから出てこない (笑) 。だからこそ、AKIKOさんと今回つながることができたのは、ひとつのターニングポイントかなと思います。

 
 
※ここで、取材していた楽屋にたまたま居合わせていたDAZZLEの浩一郎氏を見つけて。。。

TDM

彼はDAZZLEの浩一郎君です。出番前なのにパソコンに向かって仕事をしております (笑) 。彼らのパフォーマンスご覧になりました?どうでしたか?

浩一郎

若くて素晴らしいなと思いました (笑) 。面白かったですよ

TDM

先輩として、アドバイスがあればお願いします。

浩一郎

荒川監督えーっと・・・何事でも、世の中に出て行くときに、人の役に立たないと生きていけないので、新体操なら新体操という自分の動きで、人の心が動いたり、気になってもらえると、自分が生きていく存在意義が生まれると思います。他の仕事をすることになっても、誰かの役に立てて、初めて自分は生きていけるというか、社会に生かされると思うので、誰かの役に立てるように、頑張っていっていただければなと・・・。

全員

(拍手)

荒川

全員、起立!ありがとうございました!!!

社会に出て行く道・・・学校の先生という一本道だけでした。  


TDM

では、監督、選手を育てるという面で大事にしていることはありますか?

荒川

荒川監督これは監督としていけないとは思うんですが、私は勝つことに固執してないんです。

実際、高校は私立だし、すごく勝ちを求められている人間なんですけれども、勝たなければいけない、厳しい学校なんです。

だけど、1位か2位かの勝負は時の運だと思うし、逆にそこで自分に何ができるかにチャレンジしたい。じゃ、一番何がしたいのかということを、最近すごく考えています。そこに怯えて、勝利主義になるのか・・・そこで感じたのは、寂しさでした。

監督を信じ、学校を信じ、中高大の10年間、必死に取り組んできて、少なからず私も高校・大学と全国大会で優勝できました。体操界ではトップ選手として卒業できたわけです。それなのに、社会に出て行く道が全然なかった。学校の先生という一本道だけでした。

最初は岩手の私立女子高の先生でした。ですが、新体操を広めるためには、早く結果を出さなければと思い、僕は男子が教えたかったので、体操協会にかけあうと、器械体操クラブに男女50人くらいいる中学校がありました。そこの指導をボランティアで始め、それから高校にひきあげようと思ったんです。

実際、なぜそのクラブに部員が50人もいたかというと、厳しくなかったんです。僕が行った時、体操クラブなのにバスケットしてましたからね (笑) 。でも、僕は「うわ!こんなに体操クラブに人がいる!ぜひボランティアで教えさせてください!」って言ったら、「えー。ちゃんと教えないでくださいよ。辞めちゃうから。」と言われました。その時はくそー!と思いましたが、その意味はあとからわかりました。

自分の現役時代のビデオや雑誌を見せると、子供って素直ですからね、「すごーい!」と反応を示して、男子新体操部がそこでできたんです。が、指導を始めてしばらくして、1人、2人と辞めていきました。「こりゃまずい!」と思い、それから自分のキャラを今のように変えたんですよ。それまでのように、厳しく怒ったらダメだと思ったので。もちろん生徒が真剣な時は真剣な新体操人・荒川になりますが、それ以外の時は、新体操人でいる必要はないと気づきました。

すべては子どもの活動の場所を広げてあげること。


荒川

外に新体操をアピールするためには、勝ち続けなくてはいけないと思い、その後、母校の山田高校に赴任しました。男子新体操はメジャーなスポーツではないので、取材が来るのは優勝したとしても、その次の年なんです。

公立高校はなかなか優勝が続けられないんですが、私立の良さは、いい選手を勧誘できるところにあるので、トップにい続けられることによって、いろんな話を継続していただけるのではないかなと思います。今回も、山田高校に来て7年目にしてこの話をいただきましたから。

いろんないい団体がある中で、我々にこの話を振ってくださったのは、このスタンスを理解していただいたからだと思っています。今までやってきたことは間違ってなかったなと思いました。

荒川監督すべては子どもの活動の場所を広げてあげること。AKIKOさんのようにアクロバットを求めてくださる方はまだまだいると思うので、体操の世界だけで終わらせるのはもったいないと思っています。それだけ我々なら表現できる自負はあります。それがうちの仕事なんじゃないかなと思います。

TDM

そのスタンスで“勝つことに固執しない”指導となると、勝つために意識していることはどういう部分になりますか?

荒川

まず、中学校からの勧誘に始まります。推薦枠の場合、全国へ行って、どこでも採ります。校長、担任、クラブ顧問、親に会って資料を見せて「うちに来てください」と自分でお話させてもらいます。

基本、山田高校に来る時点で、勝ちたいと思う子たちがやってきます。なので、こちらから勝つことへの意識付けはいらないんです。ただ、優勝するだけでは、この世界には来ない。

最近、テレビ効果もあると思うんですけれども、「山田高校のDVDを何度も見ています。山田高校に行くために、僕はどうすればいいですか?」と中学生からお手紙をいただきました。勝っていることだけではなく、うちの演技に魅力を感じてくれたんです。これは、今新しいことにチャレンジしている成果です。だって、去年は全国選抜2位、インターハイ3位、国体2位と、一回も勝ってませんから (苦笑) 。ただ、中途半端にはしちゃだめですよね。アピールっていう意識は高いですね。

TDM

身体を作る面で意識していることは?

荒川

荒川監督これはもう、申し訳ないですけど、直美コーチの存在ですね。柔軟から、ヨガやダンスもやっているので、踊れるための筋肉を付けてくれます。それを毎日60〜90分やっているので、体はやわらかいと思います。

あと、やっぱり食事。健康管理としては、親元離れた寮生活なので、それがすごくルーズです。食事もトレーニングだと教えるようにしています。必ず4月には3大栄養素などの教えをします。

寮のおばちゃんから「ご飯を残してるんです」って言われて発覚したんですが、寮と学校が結構離れているので、帰ってる最中にチョコレートとかお菓子を買い食いしちゃうんですよね。だから、なぜその食事が必要なのかを教えてやらないといけない。食べた後に足りないものは補給しなさい、と。ま、トレーニングの後は空腹なので、コンビニに寄りたくなるんでしょうけどね。

このように、これが良い・悪いという指導ではなく、考え方をしつこく教えます。そうなると自分の意見を選べない子が取り残されていきます。私が言った考えを理解し、ストイックにやるかどうか。WORLD WIDEに連れてきたメンバーはやはりどこに行っても自分でトレーニングを欠かさないし、終わった後のクールダウンも自発的にやります。そういう考え方が植えついている子が選手になっていきますね。

TDM

荒川監督にとって男子新体操の魅力って何ですか?

荒川

やっぱり観客ですよね。自分は、高校の時にとてもいい思いをしました。不安でもそれがすごくいい評価をもらえたし、点数もいまだ塗り替えられていない最高点を出した。それで、自分の体操はイケてるんだという自信をもらったし、点数や勝つことに自信をすごくもらいました。

ただ、10年間やった新体操で生かせるものが指導者以外何もないことにクエスチョンを覚えたんです。

ダンスは古来からあるもので、その広い踊りの世界で認められたいという欲求が出てきて、だったらまだ新体操は狭いけどできることからやってみようと思いました。たとえ、人が「えー、それ体操じゃないじゃん」と言われても私はOKで、むしろ違うと言われた方が嬉しいです。それが今回実現できてよかった。

まぁ、想いはたくさんありますが、なかなか言葉にできませんね。

TDM

またぜひ何か創りましょう。これからも頑張ってください。

荒川

はい!こちらもどんどんいい瞬間の画を作れるように技をいっぱい持ってきますね!ぜひまたよろしくお願いします。

TDM

ありがとうございました!
'09/06/29 UPDATE
interview by AKIKO
photo by YAB-CO & imu
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